
高等教育市場におけるパラダイムシフトと意思決定の複雑性
日本の高等教育市場は、18歳人口の減少という構造的な変動の中で、かつてない変革期を迎えている。大学全入時代の到来が叫ばれて久しいが、現代の高校生が直面しているのは、単なる「入試の難易度」というハードルではなく、「自身のキャリアと人生を最適化するための投資判断」という極めて高度で複雑な意思決定プロセスである。
本報告書は、2024年から2025年にかけて実施された複数の大規模調査データ、すなわちリクルート進学総研による「進学センサス2024」、マイナビ進学総合研究所による「高校生の進路意識と進路選択に関するアンケート調査」、文部科学省および国立青少年教育振興機構による意識調査、さらに労働者福祉中央協議会による経済実態調査などを横断的に分析し、現代の高校生が大学を選択する際の深層心理と行動原理を解明することを目的とする。
かつての大学選びにおいて支配的であった「偏差値至上主義」や画一的な「ブランド信仰」は、現代においては多層的な価値観の中に埋没しつつある。代わって台頭しているのは、コロナ禍を経た「リアルな学生生活」への渇望、不透明な経済情勢を反映した「実利的なキャリア形成」への執着、そして家計の制約による「コストパフォーマンス」への厳しい視線である。本分析では、これらの要因が性別、地域、経済状況によってどのように変容し、最終的な志望校決定に至るのかを、定量データと定性的なインサイトを交えて網羅的に論じる。
高校生が大学選びで重視すること(最新トレンド:要約版)

最近の高校生が大学選択で重視する要素は、複数の最新調査から明確なトレンドが浮かび上がっている。主要なポイントは以下の通りである。
1. 最優先事項:「学べる内容」
高校生の大学選択で最も重視されるポイントは、**「学べる内容」で44.9%**に達しており、これは5年連続で最多となっている 。具体的な学習領域や専門分野が、学校選択の判断基準として圧倒的に重要である。その次に重視されるのは「取れる資格(31.7%)」と「学部名・学科名(30.6%)」で、いずれも学業内容に関連した項目が上位を占める 。
2. キャリア視点:「就職に有利である」
大学卒業後のキャリアを見据えた選択も重要である。リクルート進学総研の調査では、**「就職に有利である」が42.2%**で2位に位置しており、「自分が成長できそう」(37.2%)が3位である 。高校生たちは、大学卒業後の生活を意識しながら、在学中にどれだけ成長できるか、就職に結びつくキャリアを築けるかという長期的視点を持っている。
3. 学力基準の低下傾向
興味深い傾向として、「自分の学力との相性」の重視が年々減少している(26.6%)ことが指摘されている 。2021年の調査開始以来、この項目は継続的に低下しており、入試制度や学部・学科の多様化により、学力以外の観点から多面的に進路選択ができるようになったと考えられる。
4. 学生生活の充実度
リクルートの別の調査では、「学生生活が楽しめそう」が43.3%(※1位)を示しており、大学での学習だけでなく、キャンパス生活全般の充実度も重要な選択基準になっている 。
5. 実践的な懸念事項
入試校選択時の不安と悩みについて、高校生は「受験に合格できるか(32.8%)」「授業についていけるか(31.3%)」と、学力面での不安が上位を占めている 。また、経済的な制約も現実的な課題で、**受験校を2校以下に抑える理由として「受験料や入学金の支払いが大変だから(33.2%)」**が最多となっており、家計状況が進学先の選択肢に直結していることが明らかである 。
6. 意思決定への影響と年内入試
進路選択の際に最も頼りにしている相手は「家族」(42.8%)が圧倒的で、次いで「友だち」(14.5%)、「学校の先生」(9.2%)となっている。特に進学動機が明確でない高校生ほど、保護者や教師の影響を強く受ける傾向がある。 また、近年の傾向として、総合型選抜や学校推薦型選抜といった「年内入試」の増加が、受験生の準備負担を増やしている要因になっており、これが受験校数の絞り込みや入試対策の難しさにつながっている 。
第1章 志望校選択における主要決定要因の二重構造

現代の高校生の大学選びを理解する上で最も重要な鍵となるのが、「学習内容」への関心と「学生生活」への期待という、一見相反するようでいて相互補完的な二つの価値軸の存在である。各種調査データはこの二重構造を鮮明に映し出している。
1.1 「学びの内容」への回帰と専門性志向
マイナビ進学総合研究所が2025年卒の高校生を対象に実施した調査において、志望校選びで重視するポイントとして「学べる内容」が44.9%を占め、5年連続で最多となった事実は、極めて重い意味を持つ 。これは、大学を単なる「モラトリアムの場」や「就職予備校」としてのみ捉えるのではなく、自身の知的探究心を満たし、専門性を獲得する場として再定義しようとする高校生の意識変容を示唆している。
この傾向の背景には、高校教育現場における「探究学習」の浸透があると考えられる。自ら課題を設定し、解決策を探るプロセスを通じて、特定の学問分野への興味関心を早期に醸成した生徒たちが、その延長線上にある大学教育に対して具体的な「学びの中身」を求めるようになっているのである。また、社会課題の複雑化に伴い、環境問題、データサイエンス、心理学など、具体的な解決スキルに直結する学部・学科への関心が高まっていることも、この数値を押し上げる要因となっている。
さらに、「学部名・学科名」を重視する割合も30.6%と高く 、大学全体のブランド(看板)よりも、自身が所属する具体的なコミュニティ(学部・学科)の属性を重視する「ミクロな所属意識」へのシフトが見て取れる。
1.2 「学生生活」の復権と体験価値の希求
一方で、リクルート進学総研の「進学センサス2024」においては、進学先検討時の重視項目として「学生生活が楽しめそう」が43.8%で全体1位を記録した 。マイナビの調査結果(学び重視)とリクルートの調査結果(生活重視)のこの差異は、矛盾ではなく、高校生の心理的葛藤と欲求の多面性を表していると解釈すべきである。
コロナ禍において、オンライン授業やキャンパス立ち入り禁止措置など、大学生活の「余白」や「交流」が著しく制限された時期を経て、現在の高校生は「失われた青春」を取り戻そうとする強い動機を持っている。彼らにとって大学の魅力とは、講義室の中だけで完結するものではない。サークル活動、学園祭、友人との日常的な会話、キャンパス周辺のカフェでの時間など、五感で感じる「体験価値(Experience Value)」こそが、大学進学の大きな駆動力となっているのである。
「キャンパスがきれいである」という項目も上位にランクインしており 、物理的な環境アメニティが志望校決定の重要なファクターとして機能している。これは、InstagramなどのSNSを通じて視覚的な情報が瞬時に共有される現代において、映えるキャンパスや洗練された施設が、その大学の「質」を象徴する記号として受容されていることを意味する。
1.3 成長予感と自己実現
リクルートの調査で「自分が成長できそう」が3位に入っている点も見逃せない 。これは、大学生活を通じて得られるものが、単なる知識や楽しい思い出だけではなく、人間としての総合的な成熟であることを高校生が期待していることを示す。
現代の高校生は、変化の激しい社会において「現状維持は後退である」という危機感を共有している。そのため、留学制度、インターンシッププログラム、ボランティア活動など、自身をストレッチさせ、コンフォートゾーンから連れ出してくれる環境(機会)を提供してくれる大学を高く評価する傾向にある。彼らは大学に対して、教育機関としての機能だけでなく、自己変革のプラットフォームとしての機能を求めているのである。
| 調査主体 | 1位 | 2位 | 3位 | 特徴的傾向 |
| リクルート進学総研 | 学生生活が楽しめそう (43.8%) | 就職に有利である | 自分が成長できそう | 情緒的価値と将来への期待が混在 |
| マイナビ進学総研 | 学べる内容 (44.9%) | 取れる資格 (31.7%) | 学部名・学科名 (30.6%) | 教育内容と実利(資格)を重視 |
第2章 実利主義の台頭:キャリアと資格への戦略的志向

「学び」や「楽しさ」といったプロセスへの関心と並走して、出口戦略としての「就職」や「資格」に対する意識は、かつてないほど高まっている。これは、不透明な経済環境と雇用システムの変容に対する、高校生なりの防衛本能の表れと言える。
2.1 就職優位性と「大学名」の相対化
リクルートの調査において、男子を中心に「就職に有利である」が最重要項目の一つとして挙げられている 。しかし、ここで言う「有利」の中身は変化している。かつてのような「有名大学に入れば一流企業に入れる」という単純な神話は崩れつつある。代わりに重視されているのは、大学ごとの具体的な就職率、キャリアセンターの支援体制、そしてインターンシップへのパイプラインの太さである。
特に、ジョブ型雇用への移行が議論される中で、大学名という「ラベル」よりも、大学時代に何を身につけたかという「コンピテンシー」が問われるようになっている。高校生もその空気を敏感に察知しており、キャリア教育の充実度や、実社会との接点の多さを大学選びの基準に組み込んでいる。
2.2 資格取得という「生存戦略」
マイナビの調査で「取れる資格」が31.7%で2位にランクインしたことは 、現代の高校生の強い安定志向を象徴している。国家資格(看護師、薬剤師、教員、管理栄養士など)は、景気変動に左右されにくい職へのパスポートとして、極めて高い価値を持つ。
特に、AIの台頭によって将来消滅する職業などが話題になる中で、「人間にしかできない」「独占業務がある」資格職への憧れは強まっている。大学側もこのニーズに応えるべく、資格取得支援講座の開設や、合格率の高さをアピールする広報戦略を展開しており、需要と供給が合致している領域と言える。高校生にとって資格は、不確実な未来に対する最強の「保険」として機能しているのである。
2.3 学力相性重視の低下と入試戦略の変化
興味深いデータとして、「自分の学力との相性」を重視する割合が26.6%と、年々減少傾向にあることが挙げられる 。これは、高校生が学力を軽視しているわけではなく、入試方式の多様化により「偏差値」だけが唯一の指標ではなくなったことを意味する。
総合型選抜(旧AO入試)や学校推薦型選抜の定員拡大に伴い、ペーパーテストの一発勝負ではなく、志望理由書、面接、小論文、高校時代の活動実績などを用いた多面的な評価で合否が決まるケースが増えている。これにより、高校生は「今の偏差値で受かる大学」を探すのではなく、「自分の強み(探究活動、部活動、資格など)を評価してくれる大学」を探すという、より戦略的なマッチングを行うようになっている。これは大学選びが「縦の序列競争」から「横の個性マッチング」へと構造転換していることを示す重要な証左である。
第3章 ジェンダーによる選択行動の非対称性

大学選びの基準には、依然として明確な男女差が存在する。この差異は、社会的な性役割意識、労働市場の現状、そしてライフコースに対する予見の違いを色濃く反映している。
3.1 男子:社会的成功とキャリアの追求
男子高校生の大学選びは、極めて「社会的・経済的成功」への志向が強い。リクルートの調査において、男子の重視項目トップは「就職に有利である」であった 。
彼らの視線は、大学入学後の生活よりも、卒業後の社会人としてのスタートラインに向けられている。これは、依然として男性に対して「稼ぐ力」や「社会的地位」を期待する社会圧力が存在することを示唆している。そのため、男子学生は大学の研究レベル、企業の評価、OB・OGの活躍状況といった「実績データ」を重視する傾向がある。「最新の研究や教育にチャレンジしている」「学校が発展していく可能性がある」といった項目への反応が良いのも、自身が競争力のある環境に身を置きたいという上昇志向の表れである。
3.2 女子:環境アメニティとライフスタイルの調和
対照的に、女子高校生においては「学生生活が楽しめそう」が最も高い数値を記録している 。さらに、「校風や雰囲気が自分に合っている」「キャンパスがきれいである」「交通の便が良い」といった、生活環境の質(QOL)に関連する項目を重視する傾向が顕著である。
女子生徒にとって大学は、キャリア形成の場であると同時に、感性を磨き、豊かな人間関係を構築する場としての意味合いが強い。彼女たちは、オープンキャンパスなどで直感的に感じる「居心地の良さ」や、在学生の雰囲気、キャンパス周辺の街並み(カフェやショップの充実度)を含めた「トータルなライフスタイル」として大学を評価している。
3.3 資格志向におけるジェンダーギャップ
特筆すべきは、「資格取得に有利である」という項目における男女差が14.3ポイントと最大であった点である(女子の方が高い) 。
女子生徒の資格志向の強さは、将来のライフイベント(結婚、出産、育児)を見据えた現実的なキャリアプランに基づいている。一度キャリアが中断しても、専門資格があれば復職や再就職が容易であり、配偶者の転勤などによる居住地の移動にも対応しやすい。看護、医療、薬学、教育といった分野への女子の進学率の高さは、この「ポータブルスキル(持ち運び可能な能力)」としての資格への信頼感に裏打ちされている。男子が「組織(企業)」への所属を目指すのに対し、女子は「職能(専門性)」の獲得を目指すという構造的な違いが、ここにはっきりと表れている。
| 項目 | 男子の特徴 | 女子の特徴 |
| 最重視項目 | 就職に有利である | 学生生活が楽しめそう |
| 環境面 | 研究設備・レベル重視 | 校風・雰囲気・清潔さ重視 |
| キャリア観 | 企業・業界・社会的評価 | 資格・専門性・ライフスタイル |
| 特記事項 | 競争環境への適応意識 | 14.3pt差で資格志向が強い |
第4章 地域格差の深層:「ネームバリュー」対「コスト」

大学選択の論理は、高校生の居住地が「大都市圏」か「地方圏」かによって劇的に異なる。この地域間格差は、日本の高等教育における機会不平等の縮図でもある。
4.1 都市部:ブランドとキャリアの「正のスパイラル」
Studyplusトレンド研究所の調査分析によると、関東や関西などの都市圏の高校生は、大学選びにおいて「ネームバリュー(知名度)」を重視する傾向が強い 。
都市部には有名私立大学や有力国立大学が集中しており、選択肢が潤沢である。また、大企業のオフィスやビジネスパーソンを目にする機会も多く、早期から「どの大学を出れば、どのランクの企業に入れるか」という学歴社会の現実を肌感覚で理解している。そのため、就職活動におけるフィルター機能を意識し、少しでも偏差値が高く、社会的認知度の高い大学を目指す競争原理が働く。彼らにとって大学名は、自身のアイデンティティの一部であり、将来のソーシャルネットワークを構築するための重要な資産と見なされている。
4.2 地方部:経済制約と「地元志向」のリアリズム
一方、地方圏の高校生にとって、最大の決定要因は「学費・奨学金」という経済的リアリティである 。地方には大学の数自体が少なく、希望する分野を学ぶために進学しようとすれば、必然的に親元を離れて下宿生活を送る必要が生じる。
学費に加えて家賃・生活費がかかる場合、4年間の総費用は1000万円近くに達することもある。この経済的障壁は極めて高く、結果として「自宅から通える国公立大学」が絶対的な第一志望となり、私立大学への進学は経済的余裕のある家庭に限られる傾向が強まる。「周囲に大学がない環境も少なくないため、下宿・一人暮らしありきで大学を選ぶ」 という記述は、地方の高校生が直面する構造的なハンディキャップを示している。
4.3 「地元に残る」理由の変質
マイナビの調査によれば、地元就職(進学含む)を希望する理由の1位は「両親や祖父母の近くで生活したい」である 。これは純粋な郷土愛だけでなく、経済的な合理性と心理的な安全性を求めた結果でもある。実家暮らしであれば生活コストを圧縮でき、親のサポートも受けられる。
しかし、地方における若者の流出(大学進学を機に東京などへ出る)と残留の二極化は進んでいる。地元就職を希望しない理由として「志望する企業がない」「給料が安そう」が挙げられており 、キャリアへの野心がある層は経済的負担を押してでも都市部へ流出する。残るのは、経済的制約が強い層か、地元での安定(公務員や地元の優良企業)を志向する層であり、この選別プロセスが地域間の人材偏在を加速させている。
第5章 経済的障壁と進学行動の「縮小均衡」

物価高騰と実質賃金の伸び悩みは、家計を直撃し、高校生の大学選びを「縮小均衡」へと追い込んでいる。夢や理想よりも、予算という現実が選択肢を狭める冷徹なメカニズムが存在する。
5.1 受験校数の「1.94校」が意味するもの
マイナビの調査における最も衝撃的なデータの一つが、高校生の平均受験校数が「1.94校」であり、2年連続で2校を下回っているという事実である 。かつては「数打ちゃ当たる」式に5校も10校も受験するスタイルが見られたが、現在は極限まで絞り込まれている。
その最大の理由は「受験校を増やすと受験料や入学金の支払いが大変だから(33.2%)」である 。受験料だけで1校あたり3万5千円前後、交通費や宿泊費を含めれば1回の受験で5万円以上が消える。さらに、滑り止めの大学に合格した場合、本命の合否が出る前に入学金(20〜30万円)を納入しなければならないケースも多く、この「捨て金」を回避するために併願を減らさざるを得ない。この傾向は、挑戦的な受験を敬遠させ、「確実に受かる大学」への安全志向を極端に強めている。
5.2 奨学金という名の「将来の負債」
労働者福祉中央協議会の調査によると、奨学金の利用率は31.2%(大卒者では45.2%)に達し、貸与型奨学金利用者の借入総額平均は約345万円(中央値約312万円)となっている 。これは、多くの高校生が社会に出る前から高級車一台分に相当する借金を背負うことを意味する。
奨学金返済への不安は深刻であり、返済者の約4割が「結婚」や「出産」への影響を感じている 。この将来不安は、大学選びの段階で「少しでも学費の安い大学」「給付型奨学金が充実している大学」へのバイアスとして働く。また、高等教育費への公費負担拡充を求める声は全世代で高く 、個人の努力だけでは限界に達している現状が浮き彫りになっている。特に中間層においても「可能な限り公費で負担することを希望」する声が多く、教育費負担が少子化の直接的な原因となっている因果関係が見て取れる。
第6章 情報生態系の変容:親・SNS・リアルの影響力

高校生が膨大な大学情報の中から志望校を決定するプロセスにおいて、誰の意見を信じ、どのメディアを参照するのか。その情報生態系は、デジタルとアナログが融合した複雑な様相を呈している。
6.1 親(保護者)の絶対的なゲートキーパー機能
日本の大学進学において、保護者の影響力は世界的に見ても突出して高い。国立青少年教育振興機構の日米中韓4カ国比較調査によれば、進路選択に影響を与える人として「親(保護者)」を挙げた割合は4カ国すべてでトップだが、特に日本では親子で進路について「よく話し合っている」割合が8割を超え、他国を圧倒している 。
これは日本の親子関係の親密さを示すと同時に、高額な学費負担者が親であるという経済構造に起因する。親の同意なしに進学先を決定することは事実上不可能であり、親が持つ大学へのイメージ(「あそこは名門だ」「あそこは派手すぎる」など)が、高校生の選択肢を強力にスクリーニングする。特に母親の意向が強く反映される傾向があり、大学側も保護者向け説明会に力を入れるなど、ターゲットを「親子セット」として捉えるマーケティングが定着している。
6.2 SNSによる「本音」と「空気感」の検索
デジタルネイティブである高校生にとって、大学の公式サイトやパンフレットは「よそ行きの顔」として認識されている。彼らが真実を求めてアクセスするのはSNSである。リクルートの調査では、進路選びにSNSを利用する高校生は半数を超え(54.7%)、その内訳はYouTube(39.1%)とInstagram(35.1%)が2トップとなっている 。
- YouTube: 現役大学生のVlog(「ぼっち大学生の1日」「〇〇大生のモーニングルーティン」など)を通じて、講義のリアルな様子、食堂の混雑具合、サークルのノリなどを動画で確認し、自分がそこに通うイメージ(シミュレーション)を行う。
- Instagram: 大学の公式アカウントだけでなく、ハッシュタグ検索で在学生の投稿をチェックし、キャンパスの「映え」具合や、学生のファッション、キラキラした学生生活の実態を探る 。
彼らは文字情報よりも、動画や画像から伝わる「非言語情報(空気感)」を信頼しており、SNS上で魅力的に映らない大学は、検討の土俵に乗る前に排除されるリスクがある。
6.3 オープンキャンパス:最終決定の儀式
デジタルでの情報収集が進んでも、最終的な意思決定のトリガーとなるのは、物理的な体験である「オープンキャンパス」である。キャリタス進学の調査では、来校型オープンキャンパス参加後の入学意欲は90.3%が「高まった」とする一方、オンライン型では75.9%にとどまり、約14ポイントの差がついた 。
画面越しでは伝わらない「キャンパスの広さ」「建物の匂い」「先輩の優しさ」「通学路の雰囲気」といった身体的体験が、志望校への愛着(エンゲージメント)を決定的に高める。特に、保護者同伴で参加し、その場で親の安心感を得ることが、出願への最終承認プロセスとして機能している。現代の大学選びは、「SNSで認知・興味喚起」→「Webでスペック確認」→「オープンキャンパスで確信・承認」というハイブリッドなカスタマージャーニーを描いているのである。
第7章 入試形態の変化と心理的安全性

入試制度の変革は、高校生の受験戦略だけでなく、メンタリティそのものに影響を与えている。
7.1 「年内入試」への雪崩現象
近年、総合型選抜や学校推薦型選抜などの「年内入試(年内に合格が決まる入試)」を利用する受験生が急増している。マイナビの調査で受験校を増やさない理由の2位に「対策の準備が大変だから(28.2%)」が挙がっていることからも 、一般入試に向けた長期間の過酷な受験勉強を回避したいという心理が透けて見える。
「早く合格を決めて安心したい」「不合格の恐怖から解放されたい」という早期決着へのニーズは強烈である。これは、失敗が許されないという社会的なプレッシャーの裏返しでもあり、浪人を避けるために安全圏の大学を早期に確保しようとする「不確実性回避」の行動原理が働いている。
7.2 学力不安と入学後のミスマッチ懸念
受験前の不安として「合格できるか(32.8%)」に次いで「授業についていけるか(31.3%)」が高い割合を占めていることは注目に値する 。推薦や総合型選抜で入学する学生が増える中で、自身の基礎学力が大学の授業レベルに達しているかどうかに不安を抱く層が一定数存在する。
このため、大学選びにおいても、初年次教育(リメディアル教育)が充実しているか、教員と学生の距離が近く質問しやすい環境かといった「面倒見の良さ」が、隠れた評価基準となっている。高校生は、単に入りやすいだけでなく、入った後に「落ちこぼれない」安心感を求めているのである。
結論:総括と今後の展望

本報告書の包括的な分析から、現代の高校生の大学選びは、以下の3つの主要なドライバーによって駆動されていることが明らかになった。
- リアリズム(厳格な現実主義)
- 経済的コスト(学費・受験料・生活費)に対するシビアな計算。
- 就職率や資格取得実績などの「投資対効果(ROI)」へのこだわり。
- これは特に男子、地方出身者、中間層以下の家庭において顕著である。
- エクスペリエンス(体験価値の追求)
- コロナ禍の反動による「リアルな学生生活」「楽しさ」「つながり」への渇望。
- SNS映えするキャンパスや、感性に響く校風への評価。
- 女子学生を中心に、大学選びの決定的な差別化要因となっている。
- セーフティ(安全性と確実性の確保)
- 入試の早期決着(年内入試)と浪人回避。
- 親の意向の尊重と、将来の奨学金返済リスクの最小化。
- 不確実な時代における「失敗しない選択」への強いバイアス。
今後の展望と示唆
大学側および高校の進路指導においては、この複雑化したニーズに対応するきめ細やかなアプローチが求められる。 大学は、「学び」と「楽しさ」の両立を具体的に可視化し、SNSとオープンキャンパスを有機的に連携させた広報戦略を展開する必要がある。同時に、保護者に対しては、就職実績や奨学金制度などの「安心材料」をデータで提示し、信頼を獲得することが不可欠である。
また、地方と都市、男子と女子、経済力の有無によって、大学選びの「正解」は全く異なるものになっている。画一的なランキングや偏差値だけでなく、個々の生徒が置かれたコンテキスト(文脈)に寄り添い、最適なマッチングを支援する仕組みこそが、これからの高等教育市場において最も必要とされる機能であろう。
現代の高校生による大学選びは、彼ら自身の自己実現の物語であると同時に、日本社会が抱える少子化、経済格差、地方衰退といった構造的課題を映し出す鏡そのものである。その選択の背後にある論理を深く理解することなしに、次世代の育成や高等教育の未来を語ることはできない。
参考文献・データソース一覧 本報告書は以下の調査データに基づき作成された。
- リクルート進学総研『進学センサス2024』(2024年8月)
- マイナビ進学総合研究所『高校生の進路意識と進路選択に関するアンケート調査(2025年卒)』(2024年発表)
- 国立青少年教育振興機構『高校生の進路と職業意識に関する調査』(日米中韓4カ国比較)
- リクルート進学総研『進学ブランド力調査2024』
- リクルート『高校生・スマホ・SNS実態アンケート』
- マイナビ『地元就職に関する調査』
- キャリタス進学『高校生のための進学調査』/ マイナビ『高校生の進路意識と進路選択に関するアンケート調査』要約記事
- Studyplusトレンド研究所『大学選びの重視項目調査』
- 労働者福祉中央協議会『高等教育費や奨学金負担に関するアンケート2024』
