ネーミングの付け方と考え方

ネーミングの付け方と考え方

本記事では、ネーミングの考え方や逸話などを紹介します。これから社名や商品名、屋号などを考える方の参考になるようにさまざまな視点でネーミングを解説しています。

ネーミングでは、単に語呂がいい、音がいいだけでなく、深く考え抜かれた意図があります。クラウドサービスなどを使用して何百、何千案も集めて選ぶのも方法ですが、じっくりと考えたり、専門家に相談するのも確かな方法です。

方言を使ったネーミングのヒット商品(焼酎編)

 1979年(昭和54年)に発売された本格麦焼酎「いいちこ」。この商品名は、販売に先立ち公募され寄せられた約1500の候補の中から選ばれました。

 皆さんは、この「いいちこ」の意味をご存知でしょうか?実は、酒造メーカーである三和酒類株式会社の所在地、大分県宇佐地方で「いいですよ」を意味する方言だったのです。音感の良さ、ひらがな表現の優しさなどが選ばれた理由でした。

 もう一つ「いいちこ」と聞いて浮かぶのが「下町のナポレオン」というキャッチフレーズ。これも、公募の中から同時に選ばれました。蒸留酒の最高級である「ナポレオン」を目指す、との思いが込められています。

 他にも、方言にちなんで名付けられた銘柄としてよく知られているのが宝酒造株式会社の「知心剣(しらしんけん)」です。これは大分の方言で「一生懸命」を意味する「しらしんけん」に、酒造りに取り組む真摯な姿勢を「知」「心」「剣」で表現したもの。「剣が如く、心を磨き、己を知る」との強い信念が込められています。

「正露丸」問題をご存知ですか?

 大幸薬品ラッパのマークで知られる胃腸薬の「正露丸」。その始まりは、明治時代の日露戦争にまでさかのぼります。日本軍の御用薬として作られていた頃は、ロシアを征するという意味から「征露丸」の名称が使われていました。しかし、戦争の終結とともに国際関係上ふさわしくないとの理由から現在の「正露丸」に改められたといわれています。

 100年以上の長い歴史をもつ「正露丸」、実は製造しているのは大幸薬品だけではありません。現在でもおよそ30の製薬会社が、よく似たパッケージで「正露丸」を製造・販売しています。大幸薬品は1954年(昭和29年)に「正露丸」の商標権を獲得しますが、複数の製薬会社から登録を無効とする審判請求が行なわれました。

 その結果、東京高裁は「正露丸」についてクレオソートを主成分とした胃腸用丸薬の普通名称とする見解を示し、大幸薬品の商標権を無効としました。

 ラッパのマークは最も知名度が高い「正露丸」ですが、この他にも瓢箪や錨、鼓など様々なマークを付けた「正露丸」が販売されています。パッケージを見比べるのも楽しいですね。

時代と共にうつろう「日本」の語感

 皆さんは、蚊取り線香でおなじみ「キンチョウ」の社名をご存知ですか?「キンチョウ」はブランド名で、正式名称を「大日本除虫菊株式会社」といいます。「大日本」と聞くと、何か物々しい感じを受けますね。しかし、社名に「大日本」という語を冠する企業は、少なくありません。

 「大日本印刷株式会社」「大日本塗料株式会社」「大日本土木株式会社」「大日本セルロイド(現在のダイセル)株式会社」「大日本図書」などなど、いずれの企業にも共通しているのは設立が1945年(昭和20年)以前であること。

 やはり、大日本帝国時代の力強い響きが関係しているのでしょう。特に、いくつかの企業が合併して、社名を改めた際などに「大日本」という言葉が使われたようです。

 もちろん、戦後も新たに「大日本」を社名にする企業がなかったわけではありませんが、生まれ変わった日本をイメージさせる「新日本」という言葉が盛んに使われるようになりました。表現方法は変化すれど、日本を代表する企業となるようにと、社名に込められた願いは、いつの世も変わりません。

元号に由来するネーミング

 「慶応」「明治」「大正」「昭和」「平成」「令和」これは、幕末から現在までの元号です。何か、お気づきになりませんか?実は、すべて大学の名前になっています。大学が設立された時代の元号にちなんで付けられたもので、その時代を代表するような大学に飛躍するようにとの願いが込められているのでしょう。

 この他、企業の名前にも元号を冠したものがありますね。菓子メーカーの「明治」、医薬品メーカーの「大正製薬」などが、その代表です。もちろん、「昭和○○」や「平成○○」という企業もあります。元号を社名にすれば、名前を見ただけで、企業の歴史が実感できるというメリットもあり、老舗企業としてのイメージ向上にも役立ちます。

 元号とは違いますが、阪神タイガースのホームグラウンドである阪神甲子園球場は、開設された1924年(大正13年)の干支が甲子(きのえね)であったことから名付けられました。

 日本では、最初の元号「大化」から数えて「平成」まで、およそ250の元号が使われてきました。社名を考えるヒントが、元号の中にも隠されているかもしれませんね。

 ちなみに令和をつける大学があるのをご存知ですか? 九州にある令和健康科学大学です。元号に関係する大学名は、慶應義塾大・明治大・明治学院大・明治国際医療大・明治薬科大、大正大、昭和大・昭和女子大・昭和薬科大・昭和音楽大、平成国際大・平成音楽大・帝京平成大・福山平成大などがあります。平成や令和を関する大学も50年、100年経つとごく自然にかんじるものなのでしょう。

社名は時代とともに変わり、時代とともに復活する

「チョコラBB」や胃腸薬「セルベール」でお馴染みの医薬品メーカー「エーザイ株式会社」。その社名は、戦前に設立された「日本衛材株式会社」に由来します。衛材とは、医療や介護の現場で用いられる衛生材料の略で、包帯などがその代表です。

 しかし、当時から衛生材料にとらわれず新薬の開発などを手掛けていたため、社のイメージ刷新を目的に1955年(昭和30年)社名を「エーザイ株式会社」に改めました。

 創業者の内藤豊次は、カタカナへの改名について、書く手間や電話帳での検索の手間を省く目的があったと述べています。また、エーザイは衛生用品だけでなく栄養剤にも通じるため、イメージが広がるという利点もありました。

 実は、改名されたはずの「日本衛材株式会社」が今も存在しているのをご存知ですか?それは、包帯やギブスなどを製造する医療材料メーカーの「バアム株式会社」が、1986年(昭和61年)に社名を「日本衛材株式会社」に変更したためです。

 見捨てられてしまった社名を、拾い上げもう一度、別の会社が名乗るということもあるようです。ちなみに、別に「新日本衛材株式会社」という会社もあります。

カルピスの名付け親は「赤とんぼ」のアノ人!?

 「カルピス」は、1919年(大正8年)の7月7日、七夕の日に発売されました。

 その名前の由来は、牛乳に含まれるカルシウムとサンスクリット語のサルピス(乳を精製した食品)とを合わせたもの。創業者の三島海雲は、仏教の教典に伝えられる五味(乳→酪→生酥→熟酥→醍醐)の最高位であるサルピルマンダ(醍醐)とカルシウムを合わせ「カルピル」とすることを考えていました。しかし、語感や言いやすさなどについて童謡「赤とんぼ」の作曲で知られる音楽家の山田耕筰や当時サンスクリット語の権威であった渡辺海旭との相談の上「カルピス」と決まりました。

 山田耕筰は「母音の組み合わせが、とても開放的かつ堅実性があってよい。発展性が感じられる。きっと繁盛する」と評したと言われています。

シャープペンシルを開発した企業って?

家電製品や通信機器で有名なメーカー「シャープ株式会社」。この社名はヒット商品から由来して、その名が世間に知られることとなりました。でも1912年(大正元年)の創業時に、シャープって商品名の家電製品はあった? そもそも、その当時に家電なんてなかったはず…。

「シャープ」の創業者早川氏は、9歳より女性の髪を飾るかんざしや、精巧な金属製品を加工する錺職(かざりしょく)の見習いとなりました。技術を磨く一方で発明の才を発揮し、洋服のベルトを止める独自のバックルを考案。19歳で金属加工業として独立開業しました。そして、繰出鉛筆と呼ばれていたセルロイド製の筆記具を、得意の金属加工技術で見た目も美しく、丈夫で実用性に富んだ金属製の製品として完成させ、一気に事業を拡大。後にシャープペンシルと名付けられたこの筆記具が、現在の社名の由来となりました。

その後、国産第一号鉱石ラジオを完成させたのを皮切りに、国内有数の総合エレクトロニクス企業になったのはご存知のとおり。技術が分野の壁を越え、企業が発展していったのですね。

浅からぬ因縁? 伊勢でつながる三越と伊勢丹

 2008年(平成20年)の発足以来、百貨店業界において売上高ランキングのトップに躍り出た「三越伊勢丹ホールディングス」。言わずと知れた名店「三越」と「伊勢丹」の歴史をひもとくと、その浅からぬ因縁が見えてきます。

 「三越」の創業は江戸時代、1673年(延宝元年)にまでさかのぼります。伊勢国(今の三重県)に生まれた三井高利は、江戸本町に呉服店を開業し屋号を「越後屋」としました。三井高利は、のちの三井財閥の基礎を築いた人物で、「現銀掛け値なし」の正札販売を初めて実現し、「越後屋」を日本有数の呉服店へと成長させました。そして明治時代、1904年(明治37年)に「三井」と「越後屋」から一字をとって「三越」へと屋号を改め、日本初の百貨店が誕生しました。

 一方の「伊勢丹」は、1886年(明治19年)に小菅丹治が「伊勢屋丹治呉服店」を開業したのに始まります。「伊勢屋」は、小菅丹治が婿養子にはいった米穀商の屋号と言われ、伊勢商人の系譜をもつ商家でした。

 江戸時代、近江商人とともに商才に長けて活躍した伊勢商人の流れを汲む「三越」と「伊勢丹」の合併には、互いに共感しあう面があったのかもしれません。

老舗出版社の社名あれこれ

 わが国の週刊誌の双璧をなす『週刊新潮』と『週刊文春』。出版元の「新潮社」と「文芸春秋社」は、いずれも明治に創業した老舗企業です。しかも、その社名となっているのは、各社が発行している文芸月刊誌『新潮』と『文芸春秋』。このように、出版社の社名には代表的な出版物の名を冠したものがみられます。例えば「講談社」の社名のもとになっているのは、1911年(明治44年)に創刊された『講談倶楽部』という雑誌でした。そして、「小学館」は1922年(大正11年)創刊の児童向け雑誌『小学五年生』『小学六年生』に由来しています。

 1914年(大正3年)に創業した「平凡社」。その社名の由来は、実にユニークなものです。創業者の下中弥三郎が社名を考えていた時、「あかつき社、希望社、純真社、便利社」などの候補があがったが、どれも納得のゆくものではありません。そこに「平凡社はどう」とつぶやいたのが妻の緑さんでした。

 辞典の出版で名をはせた「平凡社」を、当時の学者は「名前は平凡でも、やる仕事は非凡だ」とほめたたえたと言われています。

まとめ

ネーミングは時代とともに熟成するものもあれば、変更した方がいいものがあります。また、普遍的な価値を持ち続けるネーミングがあります。そうした先を考えたり、願いをこめたりすることもネーミングには必要なのですね。

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