
部下や後輩の育成って、本当に難しいですよね。
手取り足取り教えたつもりなのに、なぜかうまく伝わらない。
「早く一人前になってくれ!」と願えば願うほど、空回りしてしまう。
そんな経験、一度や二度じゃないはずです。
ところで、家庭菜園でミニトマトを育てたことはありますか?
小さな種から芽が出て、双葉になり、ぐんぐん背が伸びて、黄色い花が咲く。
そして青い実がだんだんと赤く色づいていく。
あの過程って、ただただ「待つ」時間がほとんどなんですよね。
水をやったり、支柱を立てたりはしますけど、トマトの実を直接引っ張って大きくするなんてことは、誰も考えない。
でも、なぜか職場での人材育成になると、僕らはこのトマトの蔓をぐいぐい引っ張るようなことを、ついついやってしまいがちです。
「もっと早く!」「なんでできないんだ!」と焦ってしまう。
もしかしたら、僕たちが学ぶべき人材育成の極意は、最新のマネジメント理論の分厚い本の中ではなく、畑仕事をする農家のおじいちゃんの背中にあるのかもですな。
なぜ畑を耕すように「人を育てる」のが難しいのか?
現代のビジネスは、とにかくスピードが命です。
四半期ごとの目標達成、短期的なKPI、すぐに結果を出せというプレッシャー。
そんな環境で「まあ、気長に待ちましょうや」なんて言ってたら、「お主、正気か?」って顔をされるのがオチですもんね。
この「即効性を求める文化」こそが、人材育成を畑仕事のように悠長に構えられない、一番の理由だったりします。
農家は、種をまいたら収穫まで数ヶ月、果樹なら数年待つのが当たり前。
天気や気温という、自分ではコントロールできない要素に身を委ねながら、ひたすら作物が育つ環境を整えることに徹します。
でも僕たちは、部下という「種」を植えたら、翌週にはもう「収穫」を期待してしまう。
この時間感覚のズレが、あらゆる育成の失敗の根っこにある気がするんですよね。
焦りは、本来ならじっくり行うべきプロセスを歪ませてしまう。そんなお話です。
「早く育て」というプレッシャーが生む“化学肥料”
作物を無理やり、そして早く大きくするために使われるのが「化学肥料」ですな。
もちろん、適切に使えば素晴らしい効果を発揮するものですけど、過剰に与えすぎるとどうなるか。
土は痩せ細り、作物は見た目だけ立派で味が伴わなかったり、病気に弱くなったりするんですよね。
これを人材育成に置き換えてみると、すごく分かりやすい。
上司からの「早く成長しろ」というプレッシャーは、部下にとって過剰な化学肥料みたいなもんです。
大量の研修を詰め込んだり、本人のキャパシティを無視したOJTを組んだり、短期的な成果だけを求めて「とにかくやれ!」と尻を叩き続けたり。
一見すると、急成長しているように見えるかもです。
でも、その成長は根っこがしっかり張っていない、いわば“促成栽培”の状態。
基礎が固まっていないから、ちょっとした応用問題や予期せぬトラブルにぶち当たると、ポキッと折れてしまう。
それに、過剰なプレッシャーは、本人の「学びたい」という内発的な動機、つまり土壌の本来の力を奪ってしまうんですよね。
結果として、指示待ち人間になったり、燃え尽きてしまったりする。
せっかくの才能の種に、良かれと思ってやったことが、実は土壌を汚染していた…なんて、悲しい話ですな。
土壌を無視した「万能マニュアル」の限界
良い農家は、畑の土をよく知っています。
ここの区画は水はけが良いから乾燥に強い作物を植えようとか、あそこは粘土質だから根菜に向いているとか。
土の酸度を測って、それに合わせて石灰をまいたり、堆肥を入れたりする。
つまり、土壌の個性を完全に理解した上で、育てる作物や手入れの方法を変えるのが当たり前なんですよね。
ところが、オフィスではどうでしょう。
新入社員や異動してきた部下に対して、僕たちはその人の「土壌」をどれだけ見ているか。
多くの場合、「会社のマニュアル」という名の“万能肥料”を、全員に同じように与えてはいないでしょうか。
Aさんにとっては最高の育成プランでも、Bさんにとっては苦痛でしかない、なんてことはザラにあります。
ロジカルな思考が得意な人もいれば、感覚的な共感力が高い人もいる。
じっくり考えてから行動したい人もいれば、まずやってみてから学びたい人もいる。
それは土壌の質が違うのと同じです。
その個性を無視して、「うちはこのやり方だから」と画一的なマニュアルを押し付けるのは、砂漠に稲を植えようとするくらい、無茶な話なのかもです。
まずは目の前の部下が、どんな土壌なのか。それを知ることから始めないと、どんな立派なマニュアルも宝の持ち腐れになってしまうってやつです。
天候という名の「外部環境」を読めていますか?
農家にとって、絶対に逆らえない存在が「天候」です。
日照り続きの夏、長雨の秋、予期せぬ台風。
どんなに丹精込めて育てても、天候一つで収穫がゼロになることだってある。
だから、農家は常に空を見上げ、天気予報に耳を澄まし、変化の兆候を読み取ろうとします。
そして、天候に合わせて対策を打つ。
雨が少ないなら水路から水を引くし、台風が来るなら補強をする。
天候のせいにして嘆くだけじゃなく、その中で最善を尽くすのがプロの仕事なんですよね。
さて、僕たちの仕事における「天候」とは何でしょう。
それは、市場の急激な変化、競合他社の新しい動き、新しいテクノロジーの登場、あるいは社内の組織変更や方針転換といった、自分一人の力ではコントロールが難しい「外部環境」のことですな。
部下がなかなか成果を出せない時、僕たちはつい「本人の努力が足りない」とか「能力が低い」と、個人に原因を求めてしまいがちです。
でも、本当にそうでしょうか。
もしかしたら、市場が冷え込むという“日照り”の中で、必死に走り回っているだけなのかも。
あるいは、会社の戦略変更という“長雨”の中で、やるべきことが定まらずに立ち往生しているのかも。
上司の役割は、部下個人の頑張りだけに目を向けることじゃない。
空模様を読み、市況を分析し、「今はこういう天候だから、こういう戦い方をしよう」と、チーム全体のかじ取りをすること。
天候を読まずに「なぜ作物が育たない!」と畑を叱りつけても、何も生まれないですもんね。
作物が教えてくれる、人が“自ら育つ”環境づくり
面白いことに、凄腕の農家ほど「ワシは何もしてない。作物が自分で育っただけだ」なんて言ったりします。
もちろん謙遜もあるでしょうけど、これは真理の一端を突いていると思うんですよね。
農家の仕事の本質は、作物そのものを直接いじくり回すことじゃない。
作物が、持っている力を最大限に発揮して、自らの力で育っていけるように「環境を整える」こと。
これに尽きるわけです。
良い土を用意し、適切なタイミングで水と肥料を与え、雑草や害虫から守り、太陽の光がよく当たるようにしてあげる。
そうすれば、あとは作物が勝手に根を張り、葉を広げ、実をつけてくれる。
この考え方、人材育成にそっくりそのまま応用できる気がしませんか?
僕たち上司の仕事も、部下を無理やり変えようとすることではなく、彼らが自発的に、そして健やかに成長できる「職場環境」という名の畑を、いかに豊かに耕せるか。
そこにかかっているのかもです。
水やりは「タイミング」と「量」が9割
植物を育てたことがある人なら、誰でも知っていること。
それは、水のやりすぎは、やらなすぎと同じくらい植物に悪いってことです。
土がまだ湿っているのに、心配だからと毎日水をじゃぶじゃぶかけていると、根が呼吸できなくなって腐ってしまう。「根腐れ」ってやつですな。
水やりで一番大事なのは、土の表面が乾いたのをしっかり確認してから、鉢の底から水が流れるくらいたっぷりと与えること。
つまり、「タイミング」と「量」がすべてなんです。
これを、部下へのフィードバックやアドバイスに置き換えてみましょう。
良かれと思って、四六時中「あの件どうなった?」「ここはこうしろ」と声をかけるのは、まさに水のやりすぎ。
部下は自分で考える機会を奪われ、上司の指示がないと動けない「根腐れ」状態になってしまいます。
逆に、部下が明らかに困っていて、助けを求めているサイン(=土がカラカラに乾いているサイン)を出しているのに放置するのは、水やりを忘れて枯らしてしまうのと同じことです。
じゃあ、どうすればいいのか。
答えはシンプルで、「土の状態をよく観察する」こと。
部下の表情、仕事の進め方、ちょっとした会話の中の言葉の端々。
そこに「水(アドバイス)を欲しがっている」サインが必ず出ているはずです。
そのタイミングを見計らって、「何か手伝おうか?」と声をかけ、必要な分だけヒントを与える。
この見極めこそ、上司の腕の見せ所なんですよね。
雑草取りは「守る」ための仕事
畑仕事の中でも、地味で、でも非常に重要なのが「雑草取り」です。
なぜ雑草を取らないといけないかというと、放っておくと作物が吸収すべき土の栄養や水分を、雑草が全部横取りしてしまうからです。
さらに、雑草が生い茂ると日当たりや風通しも悪くなって、作物が病気になったり、害虫の温床になったりもする。
雑草取りは、何かをプラスにする作業ではなく、作物の成長を阻害するマイナス要因を、丁寧に取り除いてあげる「守り」の仕事なんですな。
職場における「雑草」とは何でしょうか。
それは、部下が本来の業務に集中するのを妨げる、あらゆる障害のことです。
例えば、部署間の連携がうまくいかないせいで発生する手戻り作業。
目的が曖昧なまま開催される、長時間の会議。
複雑で分かりにくい社内申請のルール。
あるいは、人間関係のちょっとしたギスギス。
これらは、部下のやる気や集中力という「栄養」を、じわじわと吸い取っていきます。
上司の重要な役割の一つは、こうした「雑草」をいち早く見つけて、引っこ抜いてあげることです。
「あの部署との調整は私がやっておくから、君は企画に集中してくれ」
「この会議は出なくていいようにしておくよ」
そうやって障害を取り除き、部下が安心して自分の仕事に打ち込める環境を作る。
派手さはないけれど、この地道な雑草取りこそが、作物をすくすくと育てるための愛情ってやつです。
太陽と風通しが「主体性」を育む
ひょろっとしたいわゆる「もやしっ子」な野菜、見たことありますよね。
あれは、日光が足りない場所で育った作物の姿です。
植物は太陽の光を浴びて「光合成」をすることで、成長に必要なエネルギーを自分で作り出します。
日光が不足すると、光を求めて茎ばかりが間延びしてしまい、ひ弱で病気にかかりやすい株になってしまう。
また、密集して植えすぎると風通しが悪くなり、湿気がこもって、これまた病気の原因になる。
健康な作物を育てるには、十分な「太陽の光」と、心地よい「風通し」が不可欠なんですよね。
人材育成における「太陽の光」とは、部下に与える「裁量権」のことです。
細かすぎる指示や管理、いわゆるマイクロマネジメントは、部下から太陽の光を奪ってしまう行為に他なりません。
自分で考え、自分で判断し、自分で行動する機会(=光合成する機会)を奪われた部下は、どうなるか。
指示されたことしかできない、ひ弱な「もやしっ子社員」になってしまいます。
そして「風通し」とは、心理的安全性が確保された、オープンなコミュニケーション環境のこと。
失敗を恐れずに挑戦できる雰囲気、分からないことを「分からない」と素直に言える関係性、上司や同僚と気軽に意見交換ができる場。
そんな風通しの良い職場では、部下はのびのびと葉を広げ、主体性を発揮します。
逆に、風通しが悪く、湿っぽい職場では、疑心暗鬼や不満が「カビ」のように繁殖し、人の心と成長を蝕んでいく。
部下に「太陽」を与え、チームの「風通し」を良くする。これもまた、上司にしかできない大切な仕事なんですな。
今日から試したくなる人材育成術5選
理屈は分かったけど、じゃあ具体的に明日から何をすればいいんだ?
そんな声が聞こえてきそうですな。
ここからは、農家の知恵をヒントにした、今日からすぐにでも試せる具体的なアクションを5つ、ご紹介します。
どれも特別なスキルが必要なものじゃありません。
部下という作物を、愛情を持って観察することから始まる、シンプルな方法ばかりです。
1. 部下の「土壌分析」から始める観察日記をつける
良い農家は畑の土を触り、その状態を毎日確認します。
僕たちも、まずは部下という「土壌」が今どんな状態なのかを、じっくり観察することから始めてみませんかね。
これは監視するためじゃなく、最適な育成方法を見つけるための、愛情のこもった分析ってやつです。
まずは知ることから
小さなノートを一冊用意して、部下一人ひとりのページを作ってみましょう。
そこに、観察して気づいたことを何でも書き留めていくんです。
「Aさんは、データ分析の作業は楽しそうにやるな」
「B君は、朝イチは少しエンジンがかかりにくいタイプかも」
「Cさんは、雑談の中で『人の役に立ちたい』って言葉をよく使うな」
得意なこと、苦手なこと、モチベーションが上がる瞬間、価値観など、客観的な事実を淡々と記録していくのがコツです。
会話の“成分表”を見る
1on1や普段の会話も、貴重な土壌分析の機会です。
どんな話題の時に目が輝くか、どんな言葉に敏感に反応するか、どんなフィードバックが心に響いているように見えるか。
会話の内容を「成分表」のように見てみると、その人の思考のクセや大切にしていることが見えてきます。
「なるほど、この人は『効率』よりも『丁寧さ』を重視する土壌なんだな」といった発見があるはずです。
記録が“水やり”のタイミングを教えてくれる
この観察日記を続けていくと、面白いことが起こります。
「最近、Aさんの口数が少ないな。何か悩んでるサインかも。ちょっと声をかけてみよう」というように、声をかけるべき最適なタイミング、つまり“水やり”のタイミングが、自然と見えてくるようになるんですよね。
勘や気分に頼るのではなく、記録に基づいた根拠のあるアプローチができるようになる。これが、観察日記の最大の効能です。
2. 週に一度の「雑草取り」ミーティングを実施する
部下の成長を妨げる「雑草」は、気づかないうちに、あちこちに生えているものです。
これを放置せず、定期的に引っこ抜くための仕組みを作りましょう。
それが、週に一度、15分だけでいいので設ける「雑草取りミーティング」です。
「何か困ってる?」のその先へ
このミーティングの目的は、進捗確認ではありません。
アジェンダはただ一つ、「今、あなたの仕事の邪魔になっているものは何?」です。
「何か困ってる?」という漠然とした質問だと、「いえ、特にないです」で終わってしまいがち。
そうではなく、「業務を進める上で、非効率だと感じること」「他の部署との連携でやりにくいこと」「もっとこうなればいいのにと思う社内ルール」など、具体的な「雑草」をヒアリングすることに特化するんです。
小さな石ころを取り除く
部下から出てきた「雑草」に対して、上司がやるべきことは、その場で解決策を提示したり、一緒に考えたりすることです。
「なるほど、あの申請書は確かに面倒だよな。来週からこのテンプレートを使ってみようか」
「〇〇部とのやり取りは、一旦僕が窓口になるよ」
部下一人では動かせないような、ちょっとした「石ころ」を取り除いてあげるだけで、仕事のしやすさは格段に向上します。
栄養が本人に届くように
このミーティングを続けることで、部下は「上司は自分の働きやすい環境を真剣に考えてくれている」と感じ、心理的安全性が高まります。
そして、無駄な作業という雑草がなくなることで、本来やるべきクリエイティブな仕事に集中できる時間とエネルギーが生まれる。
土の栄養が、まっすぐ本人に届くようになるってわけですな。
3. 指示は8割、残りの2割は「太陽の当たる場所」として余白を残す
部下に仕事を任せる時、1から10まで細かく指示していませんか?
良かれと思ってやっているその行為が、実は部下から「光合成」の機会を奪っているのかもです。
思い切って、指示の出し方を変えてみましょう。
完璧な指示は思考を奪う
次に仕事を依頼する時、あえて「指示を8割」に留めてみるんです。
仕事の最終的なゴール(What)と、絶対に守ってほしい納期や制約条件(Must)は明確に伝えます。
でも、そのやり方(How)の部分については、あえて余白を残す。
「この資料、〇日までにこのレベルで仕上げてほしいんだけど、進め方は任せるよ。何かいい方法あるかな?」
この「2割の余白」が、部下が自分で考えるための「太陽の当たる場所」になるんです。
小さな失敗という“肥料”
もちろん、任せた結果、部下が少し遠回りしたり、小さな失敗をしたりすることもあるでしょう。
でも、それこそが成長の絶好の機会です。
農家が使う堆肥だって、元は枯れ葉や家畜のフンですもんね。一見すると無駄や失敗に見えるものが、土を豊かにするんです。
致命的な失敗にならないようにしっかり見守りつつ、裁量の中で起きた小さな失敗は「良い経験になったな。次からどうすればもっと良くなるか、一緒に考えよう」と、成長の糧に変えてあげるのが上司の役目です。
自分で光合成させる感覚
自分で考え、工夫し、ゴールにたどり着いた経験は、大きな成功体験となります。
「やり方を教えられたからできた」のではなく、「自分で考えてやり遂げた」。
この感覚こそが、主体性という名の丈夫な根っこを育むんですよね。
上司は、光合成のやり方を教えるのではなく、太陽の光が当たる場所に、そっと苗を置いてあげるだけでいいのかもです。
4. 成功事例を「種採り」してチーム全体で共有する
優れた農家は、その年にできた作物の中でも、特に出来の良いものから「種」を採り、翌年の作付けに使います。
そうすることで、その土地の気候風土に合った、より強くて美味しい作物が育っていく。
この「種採り」の考え方を、チームのナレッジマネジメントに応用してみましょう。
あの人の成功はなぜ起きた?
チームの誰かが素晴らしい成果を上げたとします。
その時、「〇〇さん、すごいね!おめでとう!」で終わらせてしまうのは、もったいない。
その成功事例を、みんなの学びの機会に変えるんです。
本人にヒアリングして、「なぜその行動を取ったのか」「どんな思考プロセスだったのか」「どの工夫が成功の鍵だったのか」を具体的に言語化してもらいます。
これが、成功という作物から「種」を採る作業です。
良い種はみんなで蒔く
そして、採れた「種(=成功のノウハウ)」を、チームミーティングなどの場で共有します。
「Aさんが今回うまくいったのは、クライアントへの提案前に、この独自のチェックリストを使っていたからだそうです。これ、みんなも真似できるんじゃない?」
単なる精神論ではなく、具体的な行動レベルのノウハウとして共有するのがポイントです。
良い種は、一人の農家のものにせず、みんなの畑で蒔くことで、畑全体の収穫量が上がるんですな。
チームという畑を豊かにする
この「種採り」と「種蒔き」を文化にすることで、チームは単なる個人の集まりではなく、知見が循環し、集合知が高まっていく「学習する組織」へと進化します。
個人の成功が、チーム全体の資産になる。
一人のエースに頼るのではなく、チーム全体の畑が年々豊かになっていく。
そんな状態を目指したいですもんね。
5. 半年に一度、育った作物の「収穫祭」を開く
農家にとって、収穫の時期は一年で最も喜ばしい瞬間です。
丹精込めて育てた作物が実り、その恵みに感謝する。
この「収穫祭」の考え方を、部下の評価やフィードバックの場に取り入れてみましょう。
成長の“節目”を祝う
人事評価の面談というと、どうしても「できなかったこと」や「課題」に話が偏りがちです。
それはもちろん大事なのですが、それとは別に、純粋に部下の「成長した点」だけを祝福する場を設けてみませんかね。
半年に一度、「〇〇さんの成長を祝う会」と称して、この半年でできるようになったこと、考え方が変わったこと、頼もしくなったと感じる瞬間などを、上司から具体的に伝えるんです。
「半年前は苦手だったプレゼンが、今では堂々と話せるようになったな」
「あの難しい調整、君の粘り強さがあったからこそだよ」
これは評価ではなく、まさに「収穫祭」です。
美味しくいただく(=次の仕事に活かす)
収穫した作物は、美味しくいただいてこそ価値があります。
同様に、部下の成長した点についても、「その成長したスキルを、次のどんな仕事に活かせるか」を一緒に考えてあげるのが大事です。
「その交渉力が身についたなら、来期はもう少し大きな案件を任せてみようか」
「後輩の指導も上手くなったから、次はメンターをやってみないか」
成長を次のチャンスに繋げてあげることで、本人のモチベーションはさらに高まります。
次の作付けへの意欲
自分の成長を具体的に承認され、次の活躍の場を期待される。
この経験は、部下にとって「よし、次の半年も頑張ろう!」という、次なる作付けへの強い意欲に繋がります。
できなかったことを反省する場も必要ですが、それと同じくらい、成長を喜び、未来への期待を語る「収穫祭」も、人を育てる上では欠かせない行事なのかもですな。
よくある質問と答え
農業に例える人材育成論、面白いけど、うちの会社で本当に通用するの?
そんな疑問を持つ方もいらっしゃるかもです。
ここでは、現場でよく聞かれる質問に、Q&A形式でお答えしていきます。
Q. すぐに結果を求められる場合、待っていられません。どうすれば?
A. ごもっともな意見ですな。
これは、農家が「今年の食い扶持のための短期的な収穫(例:葉物野菜)」と、「数年後を見据えた長期的な土壌改良」を、同時にやっているのと同じだと考えると分かりやすいかもです。
まず、部下に任せる業務を切り分けましょう。
すぐに結果が必要な短期目標については、上司が積極的に介入し、手厚くサポートしてでも達成させる。これは「収穫」のミッションです。
一方で、少し失敗しても影響が少ない業務や、新しい挑戦については、本人の裁量に任せてじっくり見守る。これが「土壌改良」のミッション。
全部を「待つ」育成スタイルにする必要はないんです。
短期的な成果と長期的な育成、この二つの畑を同時に耕していくという視点を持つのがコツってやつです。
Q. 部下がそもそも成長意欲が低いように感じます。
A. なるほど、難しい問題ですもんね。
でも、考えてみてください。水を全く欲しがらない作物なんて、基本的にはないはずです。
意欲が低く見えるのは、二つの原因が考えられます。
一つは、その作物が育つのに適していない「土壌(環境)」に植えられてしまっている可能性。
例えば、内向的でじっくり考えるのが得意な人に、飛び込み営業ばかりやらせていたら、意欲が湧かないのは当然です。
もう一つは、過去に水をやりすぎて「根腐れ」してしまっているか、逆に放置されすぎて「干からびて」しまっている可能性です。
いずれにせよ、まずは「観察日記」に戻って、その人の特性や興味の源泉を探ってみることですな。
意欲がないと決めつける前に、僕らができる環境整備は、まだたくさんあるかもです。
Q. 農業の例えはわかりますが、うちはIT業界でスピードが命です。
A. 素晴らしいツッコミ、ありがとうございます。
確かに、IT業界のスピード感は、露地栽培ののんびりしたイメージとは合いませんな。
では、ビニールハウスで行われる「促成栽培」をイメージしてみてはどうでしょう。
限られた期間で、高品質な作物を効率的に育てる技術です。
あれは、ただ急かしているわけじゃないんですよね。
温度、湿度、日照時間、二酸化炭素濃度、栄養分などをデータに基づいて緻密にコントロールし、作物にとっての最適な環境を人工的に作り出すことで、驚異的なスピード成長を実現しています。
つまり、スピードが求められる業界ほど、実は「緻密な環境管理」が不可欠だということです。
日々の観察の頻度を上げたり、「雑草取りミーティング」を週一ではなく毎日5分やったりと、育成のサイクルを速めることで、この考え方はどんな業界にも応用できるはずです。
Q. 複数の部下を同時に見るのが大変です。
A. まさに、一人の農家が広大な畑を管理するのと同じ悩みですもんね。
ここで大事なのは、「全員に同じだけ手をかける」という発想を捨てることです。
農家は、畑の区画ごとに土の状態や作物の生育状況を見て、水の量や肥料の種類を変えます。
ある区画はもうすぐ収穫だから毎日見に行くけど、別の区画は植えたばかりだからしばらく見守る、といったメリハリをつけている。
これと同じで、部下によっても手をかけるべきフェーズは違います。
入社したばかりで手厚いサポートが必要な新人(=苗を植えたばかりの畑)。
自走し始めており、少し離れて見守るのが最適な中堅(=ぐんぐん育っている畑)。
スランプに陥っていて、集中的なケアが必要なメンバー(=病気にかかった畑)。
全員を100%の力で見ようとするとパンクします。
部下一人ひとりの状態を見極めて、力の入れ具合に濃淡をつける。これが、マルチタスクをこなすコツかもですな。
まとめ
人材育成は、工業製品を作るようなマニュアル化されたプロセスじゃありません。
むしろ、天気や土や生き物の個性に寄り添う、農業に近い営みなのかもです。
即効性のあるテクニックや、魔法のような育成術を追い求めるのもいいですが、一度立ち止まって、自分のチームという「畑」をじっくりと眺めてみませんかね。
土はフカフカか、水は足りているか、変な雑草は生えていないか。
部下という作物を信じて、彼らが自らの力で育つ環境を整える。
その地道で、忍耐のいる仕事の中にこそ、育成の本質が隠れている。
そんな気がしてならないんですよね。
