
はじめに
本記事では飲食店を繁盛店にする法則して、飲食店の開業や運営に重要な方針、コンセプト、業態、QSCについて説明します。社会の変化で飲食店の経営が容易ではなくなってきてきます。しかし、新しい時代は、前向きな飲食店にとってはブルーオーシャンになる可能性があるのです。本記事では立地や店構えなどではなく、繁盛店の本質について記します。
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飲食店を開業(運営)で重要な方針とは

飲食業を開業(運営)するうえで、まずすべきことは、方針を決定することです。例えば、飲食店をオープンしても「なかなかお客が来てくれない」「スタッフが思った通りに活動してくれない」「資金繰りがうまくいかない」などの問題は、実は木に例えると枝葉のことで、大きな幹を打ち立てていないことが本質的にある場合が少なくないのです。
悩みや不満が生まれるのは、飲食店を経営する上で最初に考えなければならない大切なこと決めていないから!
その大切な方針は次の3つです。
- 明確な経営理念を持つこと
- 確実性のあるビジョンを持つこと
- 円滑な計画の遂行
いずれも経営の指針になることですが、きちんと意識できている人は意外と少ないもの。そこで今回はあらためて、この3つを解説したいと思います。
飲食経営者の役割 その1 〜明確な経営理念を持つ〜

あなたの飲食店は何のために存在する?
経営理念とは、その企業や店の存在理由です。「あなたの店は何のために存在しているのですか?」とアンサーが、経営理念になります。
どんな企業でも、発展するためには社会から受け入れられなければいけません。消費者の生活に価値を提供できなければ、その企業は社会にとって不要とみなされ、お客もつきません。つまり、「お客が来ない店」は、単に人気がないというわけではなく、世間から存在価値を認めてもらっていないということです。
経営理念の柱になるのは「お客の満足」

では、経営理念とは一体どのように持てばいいのでしょうか?
簡単なのは、例えば独立開業時に「こうしたい!」と考えていたことを、そのまま理念にすることですが、それはあまりおすすめしません。というのも、飲食業は数ある業種の中でも特にお客抜きでは成り立たない業界だからです。
飲食業における売上高は、お客の満足した結果です。お客が満足するということは、その店の存在価値が認められたということです。つまり、経営理念(存在価値)を考える際は、お客の満足という視点を抜きにしては語れません。どういう商品やサービスの提供でお客に満足を提供できるのか。そのような視点が、経営理念の柱となります。
経営理念は組織内部に向けて発信する
経営理念はお客だけでなく、自店舗のスタッフに向けて発信することに意味があります。スタッフと経営理念を共有することで組織一体となった活動が行えるからです。また、経営者が何かのメッセージを組織内に発信する際、それが経営理念に基づいたものならば、スタッフも納得してそのメッセージを受け取るでしょう。経営理念は組織の行動指標でもあるのです。
● 経営理念とは、その企業の存在理由
● 経営理念の柱となるのは、お客の満足
● 経営理念は組織の行動指標でもある
飲食経営者の役割 その2 〜確実性のあるビジョンを持つ〜

具体的かつ明確なビジョンがモチベーションを生む
ビジョンとは、将来の見通しや目標のことです。漠然とした夢でなく、3年後に売上を100倍になどという具体的な計画を指します。
「将来のことは誰にもわからないのに、具体的なビジョンは持てない」と考える方もいるでしょう。確かに、コロナの流行をいったいどれだけの人が予測していたでしょうか。しかし、それでも経営者は明確なビジョンを持たなければいけません。そうでなければ、経営者を始め、スタッフが意欲的に仕事に取り組めないからです。
「今が大事」という仕事の進め方は、一見すると一生懸命に感じられても、実は場当たりてきな働き方になっていることがあります。目標がなければ計画性も生まれず、思いつきの仕事方法になってしまうのです。それではスタッフのモチベーションも上がりません。
ビジョンを持つことで優秀な人材確保にもつながる
多くの飲食経営者は、一度採用したスタッフにできるだけ長く働いてほしいと考えます。飲食業のスタッフは、個々の資質に差はあれど、やはり長く勤めれば勤めるだけ高いスキルを身につけるからです。
では、スタッフに長く働いてもらうために必要なものは何でしょうか。もちろん報酬も度外視できませんが、やはりモチベーションが重要です。
実は、人材がなかなか根付かない飲食店は、ビジョンが欠如している場合が多くあります。「自分は何のために働いているのか」という不安や疑問を抱かさず、目的意識を持って働いてもらうためにも、明確なビジョンを提示してあげることが大切なのです。
● ビジョンとは具体的な将来の見通しや目標のこと
● ビジョンを持つことで、事業活動や仕事の進め方に計画性が生まれる
● ビジョンによりスタッフにモチベーションが生まれて、人材定着につながる
飲食経営者の役割 その3 〜円滑な計画の遂行〜

資金管理を明確に
経営理念やビジョンを実現するためにも、円滑に計画を遂行する力が欠かせません。ビジネスとして飲食業を発展させるためには、新商品の開発や新店舗の出店、既存店舗の改築など、タイムリーな投資が必要です。時機を逃さない投資を行い、円滑に計画を遂行するためには、経営者による適切な資金管理が必要となります。また、「料理の質を上げるために、機材を新調したい」「サービスの質を高めるために人材を入れたい」という現場の声に対し、すぐに応えてあげることができれば、スタッフの信頼も向上し、それがひいてはお客への満足の提供にもつながります。
● 円滑な計画の遂行には、適切な資金管理が必要
● 適切な資金管理が、時期を逃さない投資を可能にする
● 円滑な計画遂行がスタッフの信頼感を醸成し、お客にさらなる満足を提供できる
本章のまとめ 行動原理が必要
経営理念やビジョンというと大手企業だけの話のように思われがちです。しかし、飲食業をビジネスとして発展させるには、確固たる行動原理が必要です。どんな小さな船でも、方位磁石がなければ遭難するのと同じです。より多くのお客に長く満足を提供し、スタッフが安心して長く働けるように、経営理念やビジョンをしっかりと持つようにしましょう。
飲食店のコンセプトは「5W2H」で「業態」を確かにする

この章では、飲食店のコンセプトと業態について「5W2H」を使って解説しています。
飲食店にとってコンセプトは、他のお店と差別化を図るために欠かせない要素です。事業を成功させる鍵といっても過言ではありません。
同時に、コンセプトは飲食業の経営者を最も悩ませるもののひとつです。どのようなコンセプトがいいのか、考えれば考えるだけ思考の迷路に陥ってしまいます。
そんなときは一度立ち止まって、自分の店あるいは自分がこれからやりたい店の「業態」から見直すことをおすすめします。「5W2H」を使えば、店舗経営のあやふやな部分がスッキリし業態の理解も進み、コンセプトの設計や見直しに役立ちます。
飲食店の業態とは何か?
飲食店の業態は「お客の利用動機の対応方法による分類」です。似たような言葉の「業種」が「主力商品のジャンルによる分類(焼き鳥店、焼き肉店、すき焼き店)」であるのに対して、業態は、「お客にどんな価値を提供するか、お客のどんなニーズにどう応えるか」を軸にします。
同じ物を売るにしてもデパート、スーパー、ディスカウントストア、専門店など、それぞれ店舗の雰囲気、接客、陳列、価格などが違います。これが業態の違いです。
飲食店のコンセプト設計が難航するのは、業種発想だからかも?
一般的に、飲食店は業種によって分類されがちです。お客も「今日は焼き鳥を食べよう」「今日は焼き肉の気分だな」など、行く店を業種で判断します。
しかし、食べたいメニューが決まっていない、何か新しい店へ行ってみたいときは場合はどうでしょうか。予算や立地、営業時間、店構えなど、業種以外の要素から店を絞り込みます。そのようなお客の心理に立って考えるのが、業態発想なのです。
一般的な話ですが、飲食業で独立開業しようとする人も、業種を決めただけでコンセプトづくりを始めがちです。つまり、業種発想でコンセプトをつくろうとするのです。
出発点が「焼き鳥」「焼き肉」など一つしかない状態では、発想もあちらこちらへと飛躍してしまい、考えがうまくまとまりません。また、お客視点に立つというビジネスの基本からいっても、立つべきなのは業種発想ではなく、業態発想であるべきです。
お客が何を求めているのかを考え、そこから逆算していけば、おのずとコンセプトも見えてきます。

焼き鳥店の場合、業態で考えると接待用の高級焼き鳥店、サラリーマン向け焼き鳥店、ファミリー向け焼き鳥店などが考えられます。
例えば、これをさらに絞りこむことも可能です。お客の前でカウンター越しに鳥を焼く姿をしっかり見せるなど、エンターテイメント性を重視した、カップル・女性向け焼き鳥店などもありです。
サービスとしては、焼く前の新鮮なネタを必ず見ていただく、味付けも塩、タレだけでなく、量や揉み込み方を聞くなどと発想を広げます。
● 業態とは「お客の利用動機の対応方法による分類」、業種は「主力商品」
● お客の心理に立って考えるのが業態発想
● お客のニーズから逆算することでコンセプトは見えてくる
業態を構成する7つ要素とは
お客が飲食店へ行く際の利用動機はさまざまです。だから手がかりもなしに業態を考えようとすると、ここでも袋小路に入ってしまうでしょう。そこでロジカルシンキングのひとつ「5W2H」を利用し、業態を7つの要素へと分解して考えます。
ロジカルシンキングのフレームワークである5W1H(When、Where、Who、What、Why、How)はよく知られています。そこにHow muchを加えた7つが「5W2H」です。


業態の5W2Hは次の通りです。
- WHAT(何を)…業種
- WHY(何のために)…お客の利用動機
- WHO(誰に)…主要客層
- WHEN(いつ)…営業時間
- WHERE(どこで)…立地
- HOW(どのように)…お客の楽しみ方のスタイル
- HOW MUCH(いくらで)…価格政策
自店の業態を5W2Hから考えてみましょう
□ 主力商品(業種)は?
□ お客の利用シーン(利用動機)は?
□ ターゲット(主要客層)は?
□ 営業時間、休業日は?
□ 出店場所(立地)は?
□ 接客スタイル(お客の楽しみ方)は?
□ 価格設定は?
コンセプト設計は、5W2Hの整合性が重要
5W2Hのうち、最も重要な要素は「価格政策(HOW MUCH)」です。食べたいものが決まっていない場合、たいていのお客はまず予算を決めて、その範囲内で店を探すからです。ただし、価格には出店場所(WHERE)や主要客層(WHO)、さらには利用動機(WHY)にも関わります。さらに出店場所や主要客層には営業時間(WHEN)やお客の楽しみ方のスタイル(HOW)にも関連します。
このように、5W2Hは独立しているように見えて、実際は密接に結びついています。そのため、別個に決定していくのではなく、全体の整合性を意識しながら考えていくことが重要なのです。
● 業態の5W2Hはそれぞれが密接に関わり合っている
●5W2Hを考える際は全体の整合性を意識することが大事
実は危険な、ひらめき頼りのコンセプト設計
「店づくりには、まずコンセプトが大事」と考える飲食経営者は多いでしょう。「うまい、やすい、はやい」の吉野家も、「第3の場所(を提供する)」のスターバックスコーヒーも、独自のコンセプトを打ち立てることで、自社ブランドを成長させました。
しかし、コンセプトを感覚やひらめきに頼って考えている経営者も多いのではないでしょうか。思いつきでつくったコンセプトは、かえってお店のイメージをあやふやにする危険があります。
次の項目では、イメージに左右されない、お客目線でのコンセプト設計について説明します。これから飲食で起業しようと考えている方は参考にしてください。
飲食店でのコンセプトの意味とは?
「コンセプト」という単語の意味を調べると、①「概念」、②「企画・広告などで全体を貫く基本的な観点・考え方」と出てきます。飲食に限らずほぼすべてのビジネスでは、②の意味で「コンセプト」が用いられています。しかし、「全体を貫く」や「基本的な観点・考え方」とは、ずいぶんぼんやりした表現です。そのことが、コンセプトの意味合いそのものを抽象化してしまう原因でしょう。
そして、コンセプトの意味合いが抽象化されることで、コンセプト設計までもがぼんやりとしたものになってしまいます。コンセプトのニュアンスをイメージとして捉えるから、コンセプトの設計もイメージの枠を越えられないのです。飲食店のコンセプトに「南国風の」や「リゾートの雰囲気」など、単なるイメージ的なものが多いのはそのためです。
● コンセプトの意味は①「概念」、②「企画・広告などで全体を貫く基本的な観点・考え方」
● ビジネスにおけるコンセプトは、②の意味で用いられることがほとんど
● その意味合いが抽象的なゆえに、コンセプト設計までぼんやりとしてしまうことが多い
コンセプトは飲食店のイメージや雰囲気を指すものではない
コンセプトは店のイメージや雰囲気を指すものではありません。そもそも、お店づくりはイメージだけではできないからです。では、コンセプトは何かというと、それは「お客にどのようにお店を利用してもらうか」という基本的なプランです。
お店の業態を構成する7つの要素を、5W2Hで紹介しました。業態とは、お客の利用動機の対応方法のことです。「こんなお店を利用したい」と考えるお客のニーズに、どう応えるのか。そのような姿勢に基づいて構築されるプランが、コンセプトになります。
● コンセプトは店のイメージや雰囲気を指すものではない
● コンセプトとは、「お客にどのようにお店を利用してもらうか」という基本的なプラン
コンセプトは、飲食店の特長を表す
改めて業態の5W2Hを確認しましょう。
- WHAT(何を)…業種
- WHY(何のために)…お客の利用動機
- WHO(誰に)…主要客層
- WHEN(いつ)…営業時間
- WHERE(どこで)…立地
- HOW(どのように)…お客の楽しみ方のスタイル
- HOW MUCH(いくらで)…価格政策
この中で、例えば「南国風」や「リゾートの雰囲気」といったイメージは、「お客の楽しみ方のスタイル(HOW)」の方針でしかありません。だからイメージ的なコンセプトを決めたところでその他の5W1Hは定まらず、結果的にそのお店がお客にどんな価値を提供できるのかがあやふやになってしまうのです。
一方で、5W2Hを貫く形で、プランとしてのコンセプトを設計すればどうでしょうか。利用動機や来店頻度に対応した価格設定を行い、ターゲット客層を誘引しやすい立地を決める。すると、そこから必要なメニュー数や厨房設計、スタッフの人数などが自ずと浮かんできます。このように、プランとしてのコンセプトを設計することで、お店のシステムも構築しやすくなるのです。
● 業態の5W2Hを貫く形でコンセプトを設計する
● 業態の5W2Hが決まれば、メニュー数や厨房の設計、スタッフの人数など、店のシステム構築も行いやすくなる
本章のまとめ コンセプトは骨格と同じ
5W2Hで飲食店の業態を明確にすれば、自店の強みや競合への優位性が判明します。その判明した事柄が、コンセプトを設計する際の軸となります。
また、飲食店は内装や雰囲気を楽しむためだけの場所ではありません。お客が満足するには、提供される料理の質やサービスの質も含まれます。お客が心おきなく楽しめるように、お店全体をスムーズに機能させることが重要です。そして、そのシステムを構築するために必要なのが、プランとしてのコンセプトなのです。

リピーターを獲得する適正なQSC

本章では飲食店において、店舗のレベルを向上させるための指標である「QSC」を解説しています。
飲食業に関わらず、すべてのビジネスの本質は、「お客の満足感を追求すること」です。利用者が満足すれば、リピーターになるばかりか、口コミとなって世間に広がり、新たなお客を呼び込むこともできます。提供できる満足感は大きければ大きいほど、より強い推進力となり、ビジネスを後押ししてくれます。
しかし、目に見えない「お客の満足」を、どのように追求すればよいのでしょうか? 「料理の質を上げたり、価格を下げたりしても、お客が来てくれない」と悩む経営者も多いと思います。
そこで役立つのが、今回紹介する「QSC」という指標です。思ったようにお客からの評価を得られていない経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
飲食業のQSCとは
QSCは、「Quality:品質(商品)」、「Service:サービス」、「Cleanliness:クレンリネス」を意味します。それぞれについて解説していきましょう。
Quality:料理はお客が納得できるレベルにあるか
料理やドリンクのことです。具体的には以下のようなものがあります。
- 美味しさ
- 素材や調理方法のオリジナル性、希少性
- 盛り付けの美しさや個性
- メニュー構成、ドリンクの品揃え
- 食器のセンス、グラスのセンス
- 適温での提供
この他に、ヘルシー感あるいはボリューム感といった、その店やメニューの方向性なども含まれます。
Service:サービスはお客が満足できるレベルにあるか

主に接客のことです。基本的には、オーダーの取り方や料理を運ぶ際の所作、適度な会話などのコミュニケーションなどがあります。また、おもてなしの心による配慮や、お客への感謝の気持ちも含まれます。次の料理を持っていくタイミングなど、マニュアル化しにくいものが多いため、スタッフ全体の教育や経験が必要です。
Cleanliness:クレンリネスはお客が安心できるレベルであるか
クレンリネスとは原則的には清掃のことです。お客の健康を損なわないために清潔を保つことは、飲食店として必要最低限だといえます。清潔感のあるお店なら、お客は安心して食事を楽しめます。このことから、クレンリネスは「お客の居心地の良さ」とも解釈できます。快適さを感じさせる内装や演出など、食事をするのにふさわしい雰囲気であるかも評価するポイントです。
● QSCは、「Quality:品質(商品)」、「Service:サービス」、「Cleanliness:クレンリネス」
● Quality:品質(商品)は料理の美味しさや希少性、盛り付け、品揃えなど
● Service:サービスはオーダーの取り方やコミュニケーションなど、接客のこと
● Cleanliness:クレンリネスは「お客の居心地の良さ」。清潔性に加え、内装や演出も含まれる
なぜ飲食店ビジネスにQSCが必要なのか
コンビニやスーパーで食べ物や飲み物が販売されるようになってから、飲食店は単に料理を提供する場ではなくなりました。飽食の時代、お客は外食ならではの「付加価値」を求めて飲食店を利用します。また、食材や調理器具、調理法が改良されるにつれて、「美味しい料理」というもののが当たり前になりました。「美味しさ」は、飲食店としての最低条件であると言えるほどです。料理がいくら美味しくても、スタッフの対応がそっけなかったり、フロアにゴミが落ちていたら、お客はその店を評価してくれません。外食に慣れた人が多い現代では、なおさらQSCの向上が求められるのです。
● お客は外食ならではの付加価値を求めて飲食店を利用する
● 外食に慣れた人が増えた現在は、なおさらQSCの向上が求められる
QSCはバランスがとれてはじめて機能する
QSCは個別評価ではなく、総体で評価するようにしましょう。というのも、QSCはどれか一つが欠けていても機能しないからです。
QSCの3つのうち、何か1つでも強みがあればいいと考える経営者もいます。しかし、それでいいのでしょうか。スマホですぐに情報が得られる時代です。お客は「何かおかしい」「変だ?」と思うとすぐに検索します。お客の審美眼は、ミシュランの調査員並みに厳しいと考えて臨むくらいがちょうどいいのではないでしょうか。
特に近年はグルメサイトの口コミで下調べしてからお店に行く人が増えています。つまり、「今回は思いがけずアタリの店だったよ」と、お店や料理との出会いを楽しむお客よりも、下調べ通り以上の質を期待して訪れるお客が増えているのです。そのようなお客は、細かい目でお店をチェックします。だから、何かひとつの長所より、他のふたつの短所に目がいってしまうのです。このような理由からも、QSCのどれかひとつにこだわるのではなく、全体的な質の向上を目指すようにしましょう。
● お客は下調べ通りか、それ以上の質を期待してお店に訪れる
● そのため、長所より短所に目がいきがちになる
● だからQSCは3つのバランスが整って、はじめてお客に満足を提供できる
〜お客が満足を感じる尺度を知ろう〜
続いてQSCを基準として、お客が飲食店に持つ満足度の尺度について解説します。
「お客様はわがままだ」と思っている飲食店の経営者は多いのではないでしょうか。そして同時に、「そのわがままにお応えして、喜んでいただくことが飲食業のやりがいだ」とも感じているでしょう。お客から高い評価を得て、愛されるお店をつくることが、すべての飲食経営者の夢だと思います。
お客に満足してもらうには、どういう価値を提供されると満たされるのかという尺度を知っておくと便利です。今回はその尺度について紹介します。
QSCから考える、お客の満足感の尺度
お客は飲食店に訪れると、さまざまな場面で、さまざまな角度からお店を眺め、満足したり、不満を抱いたりします。QSC(商品・サービス・雰囲気)の3つから代表的なものを見ていきましょう。
商品:Qualityから見た満足感の尺度
商品における最も代表的な尺度は、「美味しさ」なのは間違いありません。
「この程度の美味しさなら、わざわざここに来る必要はない」
このようにお客が感じてしまうと、すべての努力が水の泡になります。
ただ、美味しさをクリアできたとしても、「ボリューム」「盛り付け・食器」などの尺度が現れます。例えば同じ商品でも、人によって次のような感想を持つでしょう。
お客A「味は満足。でももっと食べたかった…」
お客B「味もボリュームも満足。でも食器がインスタ映えしない…」
お客C「味もボリュームも、食器も満足」
食事に量や見栄えを求めるのかは、年齢や性別などお客のパーソナリティによって異なります。ここでお客の満足を考えるならば、男性向けにメニューを大盛り化するなどターゲットの絞り込みを行うか、料理の量をこまめに注文できるようにして、幅広い人が楽しめるようにするなどの方法が考えられます。
● 商品における絶対的な尺度は「美味しさ」
● 「美味しさ」をクリアすると、「ボリューム」「盛り付け・食器」などの尺度が現れる
● 量や見た目に関する尺度は、お客のパーソナリティで変化する
サービス:Service、雰囲気:Cleanlinessから見た満足感の尺度
サービスから見た満足感の尺度も、個人差があります。
お客A「スタッフは礼儀正しい。でも冷たく感じる…」
お客B「距離が近すぎなくてちょうどいい。でも水がなくなっても気付いてくれなかった」
お客C「水はすぐ替えてくれたけれど、態度が雑だった」
雰囲気から見た満足度の尺度も同様です。
お客A「内装は素晴らしいが、清潔感に欠けた」
お客B「清潔感は十分だが、内装は派手に感じた」
お客C「内装も清潔感も特に気にしなかった」
サービスや雰囲気による満足度の尺度は、商品よりもさらに個人的な価値観に基づくケースが多くあります。そのため、抜本的に解決するのは困難と考えられます。これほど好き勝手な感想を持たれると、経営する側として何から手を打てばいいのかわからなくなりますしね。
ただし、「サービスに親しみを感じられない」という感想が多ければ、スタッフの接客教育に力を入れる。「清潔感が足りない」という感想が多ければ清掃の回数を増やす。といったように、ひとつずつ見ていけば改善策を打ちやすいともいえます。
● サービスや雰囲気に関する尺度は、個人的な価値観によるものが多い
● そのため、抜本的に解決するのは困難といえる
● 一方で、問題をひとつずつ見ていけば、改善のための施策を打ちやすい
お客のわがままは、愛される店づくりのチャンス
実は、サービスや雰囲気という「空気感」で判断されるものは、例えば水がなくなったことに気付いてもらえなかったとか、お釣りを片手で渡されたとか、ほんのちょっとしたことですぐに否定的な評価に傾きがちです。つまり、そのちょっとしたことを直せば、高評価へと転じる可能性も決して少なくないのです。
だから、「わがままなお客の言うことだから」と聞き流さず、その印象を持った原因を探りましょう。愛されるお店へと成長するきっかけが見つかるかもしれません。
● サービスや雰囲気など「空気感」で判断されるものは、ほんのちょっとのことで否定的な評価をされる
● 同時に、ほんのちょっとのことで肯定的な評価もされる
●お客の感想から、その「ほんのちょっと」が何かを探り、改善に活かす
本章のまとめ
SNSで手軽に意見を表明できるようになった現在、お店に関する情報の発信は評論家やメディアの編集者だけではなくなりました。その厳しい(あるいはわがままな)お客を満足させることが、これからの飲食店ビジネスでは重要になります。そのためにもQSCのバランスをしっかり考えてみましょう。それが、リピーター獲得にもつながります。
お客のニーズは人によって異なり、時代によっても変化します。言い換えると、満足感の尺度は一定ではないということです。「インスタ映えするか、しないか」という尺度も、ほんの10年前には存在しませんでした。
つまり大切なのは、お客からどのように見られているか、どのように感じられているか、ということを常に意識し、改善していくことです。その継続が、愛される店づくりの近道なのです。