
選別受注とはサービスに応じて顧客をグループ化すること
本記事では「選別受注」に焦点に当てて、優先すべき業務を選択する方法について説明します。その鍵となるのが行動内容と成果です。
選別とは、選びわけることであり、選別受注とは、業務において自社のサービスを明確にして、それに応じた顧客へアプローチすることです。顧客を選ぶのではなく、分けるという考え方が根底にあります。
それによって顧客にならないケースも出てくるかもしれません。
主にB to B企業を想定していますが、本質的にはB to Cも同じです。利益や生産性の向上を劇的に高めたい経営者や部長職、課長職など、マネジメントに携わる方はぜひ参考にしてください。
売上と行動の二つを評価する仕組みをつくる
利益や生産性の向上が、思うようにならない、計画的通りにいかない企業は、売上金額のみを企業活動の目標に据えているからかもしれません。企業活動を行う際には、売上目標と行動目標の二つを考えることが重要です。
顧客に対して、どのような活動を行えば、どのような結果を生み出すのか、そのプロセスを定量化しなければ、顧客への活動が属人的な能力に頼りきりになり、企業内にノウハウが構築されません。
働き方改革を進めながら企業活動を最大化させるには、人材の有効活用が欠かせないと言われます。しかし、個人の能力に頼るばかりでは、結果がケースバイケースに終わってしまいます。
お客様は万能な神様ではありません。それぞれ特徴があります。それらを把握して必要に応じた対策ができるように行動量と行動内容を見える化しましょう。
顧客の選択と集中が必要な理由
ネットの発展で顧客は待ってくれない時代に
なぜ顧客とのコミュニケーションに多くの人手が求められるのでしょう? 答えは簡単です。顧客は待ってくれないからです。
インターネットの発展により、あらゆる商品・サービスで簡単に代替品を入手できるようになった現在、たった1本の電話を取りそこねただけで、顧客は競合他社に乗り換えてしまう可能性があります。
優秀な営業部署ほど働き方改革はうまくいかない?
「たった1本の電話」の重要性を、優秀な営業担当者ほどよく理解しています。定時後に顧客の元に足を運んだり、夜中の電話にも対応するのは、そうしなければ大きなチャンスを逃すとわかっているからです。
もし現在、あなたの会社の営業部署で働き方改革がうまく行っていないとしたら、それは優秀で情熱的な営業担当者が多いからかもしれません。
優秀な人材の情熱は、より良い顧客に注ぐべき
優秀な営業担当者は自分で考えて行動します。しかし、それで満足しているだけでは、自社にとっては大きな機会損失かもしれません。
顧客には、良い顧客と間違った顧客がいます(悪い顧客ではありません)。前者は少ないコストで多くの利益をもたらしてくれる顧客です。一方後者は、多くの利益をもたらすものの、かかるコストも大きい顧客です。例えば契約後、カスタマーサポートを頻繁に利用する顧客もコストに含まれます。
優秀な営業担当者がその情熱を「間違った顧客」に注いでいるとしたらどうでしょうか。それは非効率ですし、なにより「良い顧客に注力する機会」の損失につながります。だから会社として、その優れた力を良い顧客に集中させる仕組みをつくらねばならないのです。これが行動価値による判断です。
優秀な営業担当者のリソースを、間違った顧客に注力してしまうと、より良い顧客との機会損失につながる
良い顧客だけを選ぶからといって、仕事が楽になるわけでないことに注意しましょう。1億円の利益をもたらす顧客1社と、100万円の利益をもたらす顧客100社を管理するのは、同じぐらい大変なのですから。
選別受注制の導入で仕事のランク付け
継続受注型の業態なら、顧客の生涯価値を
良い顧客の見分け方は業態によって異なります。サブスクリプションに代表されるような「契約更新」が重要となる継続受注型の業態では、ライフタイムバリュー(LTV;顧客の生涯価値)が基準となります。その顧客が生涯を通してどれだけの利益を自社にもたらしてくれるかを軸に判別するのです。
単発受注型の業態なら、採算性を基準に判断
建築業など、単発受注型の業態では、採算性や納期などが重要な基準になります。業務にかかる人件費や材料費の原価と照らし合わせながら判断を行います。人件費は、社員が年次有給休暇を完全に取得した場合で計算するようにします。
継続受注型と単発受注型に分類しましたが、単発受注型でもLTVの視点は持っておくようにしましょう。小さな案件をこなして信頼関係を構築し、やがて大きな案件を任されるようになることも有効な経営戦略だからです。そのため、案件の採算性だけでなく発注元企業の規模や事業内容なども精査し、自社にとって良い顧客か見極めましょう。
顧客(案件)の選別は、できる限り全社的に取り組む
顧客(案件)の選別は、できる限り全社的に取り組みましょう。経営層や経営企画部、マーケティング部などの独断で行うのは避けるべきです。
というのも、顧客にかかるコストには、現場にしかわからない、データに表れないものもあるからです。先ほど挙げた「カスタマーサポートを頻繁に利用する」というコストも、経営企画部やマーケティング部などいわゆる前衛の部署では注意しにくいコストになります。
また、全社的(組織的)に取り組まねばならない理由として、選別受注制の導入による各部署の役割の変化があります。次の項目で説明しましょう。
継続受注型の業態はライフタイムバリューを、単発受注型の業態では採算性や納期を基準に選別受注する。選別はなるべく全社的で取り組む
選別受注制を全社的に取り組むべき理由
選別受注制の導入で各部署の役割が変化する
より良い顧客を選択し、リソースを集中させるということは、その顧客と長期的な関係を構築することに他なりません。つまり、その場そのときで対応していた各部署は、すべて長期的な視点に立って行動する必要があるのです。
その主な変化は次の通りです。
営業部署
- □自社サービス(製品)を長期的に利用する顧客のみが対象となる
- □初回契約より契約更新が重視される
- □顧客が描く長期的なビジョンの理解が求められる
- □契約後も、自社サービス(製品)がどのように役立っているのか、定期的に情報を取得する必要がある
製品部門(製品管理および技術・開発・製造)
- □デモ版の品質より、実装版の性能がより重視される(一度売れたらOKではない)
- □機能性に加えて、導入のしやすさもデザインの基準になる
- □自社製品の評価指標にROI(投資利益率)が加わる
- □製品に拡張性が求められる(アップセル・クロスセルにつながるように)
カスタマーサービス部門
- □ヘルプへの対応より、「ヘルプを必要とする頻度を減らすこと」が業務の中心になる
- □一方で、ヘルプ対応の緊急性も高くなる(より良い顧客は、「自分ではどうしようもない!」という状態のときにカスタマーサービスを利用する)
- □顧客の動向を常に注視する必要がある(自社から離れようとする動きに迅速に対応)
目標の設定方法も柔軟な対応が求められる
選別受注制は、自社が顧客を選んでいるようでいて実際はその反対、「自社が顧客から選ばれるようにする」といえるのが、これまでの説明で感じていただけたと思います。
そうなると、自社目線で算出していた営業目標の設定も、顧客中心の目線で行わなければいけません。
経営層からのトップダウンで営業目標を出すのではなく、現場の実情をよく理解した営業マネージャーなど管理職の意見も十分に交えながら、現実に即した目標を算出するようにしましょう。
営業目標では、活動量と内容が重要なファクターになります。なぜならそれは定量的に測定できるからです。定量的になるとPDCAのサイクルを回すことが可能になります。
また、目標達成までの期間も、月間、四半期結果、繁忙期、閑散期で柔軟に設定します。それによって、それぞれの時期や期間における活動価値を数値化することができます。
選別受注では長期的視野と現場・経営の実情に即した判断が重要
時間単位での年次有給休暇の付与制度で休みやすい環境を構築
より良い顧客が増えると、ひとつの顧客に対して複数の営業担当者がつくケースも増えます。また、マーケティング部や顧客管理部との連携機会も増えるため、チームによる協働も多くなるでしょう。さらに、緊急度の高い案件も増加すると考えられます。
そうなると、「チームに迷惑がかかる」「外せない仕事が多い」という理由で、働き方改革の基本である年次有給休暇の取得率が低下する危険性があります。
その対策としては、時間単位での年次有給休暇の付与制度が有効です。1日単位での休暇ではなく、必要な時間だけ年次有給休暇取得を可能にするのです。そして、チームシフトに各メンバーの有給休暇のスケジュールを組み、業務への影響を抑えます。
時間単位での年次有給休暇の付与制度でチーム活動への影響を最小限に
閑散期は顧客対策に力を入れる
理想は、繁忙期と閑散期の平準化を図ることです。ただ、「年度内に案件を完了させたい」という顧客の要望もあったりして、なかなか平準化は難しいでしょう。(もっとも、工事は発注した年度内に終わらせるのが当然という考えが根強かった建築業界では、現在、国や業界を挙げて繁忙期と閑散期の平準化が図られています)
参考 i-Construction(国土交通省)
繁忙期と閑散期がはっきり分かれていれば、熊が秋に冬ごもりの準備をするように、繁忙期に向けた準備をするなどが考えられます。閑散期のあいだに顧客から情報を入手し、より良いサービスや商品の開発につなげるのです。そこまですることが現実的に難しいかもしれませんが、そこから新たなヒントを得られる可能性は十分にあります。
経営の理想は、繁忙期と閑散期の平準化を図ること
おわりに
今回は、営業を中心に自社ビジネスの仕組みそのものを変えようという話になりました。企業にとって働き方改革の成功は、生産性を向上させられるかどうかにかかっています。働き方改革をきっかけに、ビジネスの仕組みを大きく変化させてみてはいかがでしょうか。
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