
はじめに
本記事では、リモート研修を成功させるための基本と応用をまとめました。
コロナ禍でリモート化が進む現代のビジネスシーン。研修をオンラインで行う企業も増えています。しかし、リモート研修では熱気が生まれにくく、モチベーションが上がりづらいという声も聞かれます。
それらの対策として大事なのは、社員一人ひとりに研修を自分ごととして捉えてもらうことです。リモート研修の導入を検討している経営者または人事の研修担当者の方におすすめの記事です。
リモート研修の基本編
コロナによってリモート研修の導入を検討している企業が増えています。web上でも、リモート研修の成功事例を報告するサイトをよく見かけるようになりました。この章では、リモート研修の基本になる理論や事前学習について説明します。
1. 目的を考える際は、ゴールデン・サークル理論を活用
受講者の主体性を促すことを考える
研修の担当者に「なぜこの研修を実施するのか?」と質問すると、次のような答えが返ってくるでしょう。「新入社員を育てるため」「管理職の役割を理解してもらうため」「コンプライアンスの意識を深めてもらうため」など。
しかし、それらはすべて会社側の目線です。会社目線の目的が、受講者のモチベーションにつながるとは限りません。
人の行動は、「そうしなければいけないから」「そうしてもらいたいと言われたから」という理由ではなく、「そうしたいから」という理由によって生まれます。
つまり、受講者の主体性を促すには、受講者目線での目的を明確し、それを受講者に説明する必要があります。
目的を説明する際は、ゴールデンサークル理論を活用してみてください。この理論では、「Why(なぜ)」「How(どうして)」「What(何を)」のうち、Whyを出発点にして物事を説明していきます。
たとえば働き方改革についての研修を行うときは、
1 Why;人生の価値を高めよう
2 How;そのためにはワーク・ライフ・バランスを取るべき
3 What;じゃあ、業務の効率化で生産性アップが必要だよね
という順番で説明することになります。
「会社として働き方改革に取り組まなくてはいけないから」より、「あなたの人生がより豊かになるから」と説明されるほうが、研修に対して意欲的になるのは当然といえるでしょう。
2. 定性的な単位で受講者を選び、研修の目的を明確にしよう!
定量的に選ばれた受講者には能力やニーズにばらつきがある
新入社員研修や内定者研修、昇格者研修に管理職研修など、一般的な研修は、定量的な単位ごとに受講者が選ばれます。
しかし、定量的な単位では、受講者の中に能力やニーズのばらつきが生じてしまいます。ある受講者は熱心に取り組む一方、別の受講者は寝ている……。
という状況が発生するのも、受講者ごとに求めているものが違うからに他なりません。
定性的に受講者を選ぶと、研修目的も明確化しやすい
リモート研修は、受講場所を選ばないという特性から、部署などの壁を越えて受講者を集められるところも強みです。
「最近仕事にやりがいを感じない」、「結婚したばかりで、仕事と家庭のバランスのとり方がわからない」など、定性的な単位で受講者を集めて研修することも可能なのです。
ここまで研修の目的がはっきりしていれば、受講者も研修を受ける意義や目的を明確に理解し、主体的に臨めるようになります。
こういう研修をしてほしいなどと、社員から研修内容を公募するのも妙案です。研修に対し、社員がより主体的に行動するようになるでしょう。
3. 事前学習を徹底し、研修時間を有意義に!
リモート研修はアウトプットに適している
テキストや動画による学習は研修前に終わらせておきましょう。これはリモート研修のデメリットを解消するためです。
リモート研修はモニター上で顔が見えるとはいえ講師と受講者の距離が遠いので、座学にはあまり適していません。集中力が続きにくいのです。
そのため、インプットよりもアウトプットの機会として活用するほうが適しています。
リモート研修をアウトプットの機会にするためには、以下のような工夫が考えられます。
・事前資料から自分なりに意見をまとめて、研修時間内に発表してもらう
・役員クラスに参加してもらい、グループ対抗でプレゼンを競ってもらう
・講師による説明のあと、質問や討議の時間を多めに設ける
役員の参加も促し、全社的な雰囲気を出す
特に、役員クラスに参加してもらってプレゼン大会を開くのは、新入社員研修に効果的です。リモートならワンクリックで参加できるので、多忙な役員に対しても参加を依頼しやすいでしょう。
発表形式でリモート研修を行うと、発表者以外の受講者は聞き役に回ってしまいがちです。発言やメッセージを送信すると、他の受講者の邪魔になってしまうかもしれないと考えるからです。そこで、リモートアプリに付属する絵文字やスタンプ機能を活用しましょう。「ここをもっと詳しく聞きたいと思ったら、びっくりマーク」、「質問したいと思ったら挙手のスタンプ」など、リアクションに応じた絵文字・スタンプをあらかじめ決めておくと便利です。
4. リモート研修の外注は丸投げ禁止!外注先と自社とで認識をすり合わせよう
企業理念から逸れた研修は、総じて失敗と考えるべし
リアル型の研修からリモートへの切り替え対応が難航し、研修会社への外注を検討している企業もあると思います。このとき、外注先への丸投げは禁物です。
そもそも研修は、社員のスキル向上が目的ではありません。自分たちの会社が抱く理念(自社サービスで世の中を便利にしたい、ビジネスにイノベーションを起こしたい、顧客の生活をより豊かにしたい……)を実現するために必要な人材を育てることが目的です。
たとえ営業部署の成績が200%成長したとしても、それが企業理念に反する活動によるものなら、その研修は失敗です。
外注先と自社とで認識をすり合わせよう
つまり、すべての研修の前提にあるのは「企業理念」なのです。ゴールデン・サークル理論でいう「Why」の部分ですね。
そして、企業理念を最もよく理解しているのは、その会社で働く人たちです。だからこそ、外注するときは丸投げにせず、自社の企業理念をしっかりと伝えて、認識の齟齬がないようにしましょう。
より質の高い研修を行いたいなら、あらかじめ課題を抽出し、その解決につながる研修をしてほしいと依頼することがおすすめです。研修会社もプロとはいえ、限られたスケジュールの中で一からプログラムをつくっていくのは困難です。また、受講者目線での目的を考えたり、事前学習を徹底するなどして受講者のモチベーションを高めておくことも忘れないようにしましょう。
5. 過去の研修にこだわるな!リモート研修の最大の注意点
リモートに最適化された研修を実施しよう
最後にして最大のリモート研修の注意点。それは、対面で行っていた従来の研修を、そのままリモートで再現しようとしてはいけない、ということです。
対面で会話するときの空気感をオンライン通話で再現することが難しいように、対面式の研修をそのままリモートで行おうとしても、おそらく失敗するでしょう。
それよりも、たとえ従来の研修とはまったく違う形になってもいいので、リモートに最適化された研修を実施することが大切です。
おさえておきたいリモート研修の特性とは
最後に、リモート研修の特性を紹介します。
・移動の制約が少ない
→役員など、リアルでは参加ができなかった人物をオブザーブ参加させやすい。
・場所の制約が少ない
→参加人数に上限がない。動画視聴の研修ならリモートは一斉に見せることが可能。
・データの蓄積、活用がたやすい
→リモートなら、詳細なデータを入手できる。
受講者がいつ学習したのか、どのくらいの時間がかかったのか、どのようなコメントをしたのか、テストは何点だったのか、などといったしかもデジタルデータとして取得できるので、紙ベースに比べて管理や分析も簡単です。収集したデータの活用方法としては、社員一人ひとりに最適な学習を提供するなどが考えられます。
リモート研修の応用編
従来のリアル型研修と同等の成果を出せたことで満足するのはもったいないと思いませんか? せっかくオンラインによる研修がうまくいったのなら、リモートの特性を活かした新たなイノベーション創造に挑戦しましょう。
1 リモート研修をきっかけに異業種交流を始める
オンライン環境を自社の外に広げる
リモート研修の多くは社内の関係者のみで行われます。研修なので当然でしょう。しかし、それはインターネットという広大な海の上に、小さなビニールプールを出しているようなものです。
せっかく外の世界とつながる環境があるのに、自社内の狭い世界に閉じこもっているのはもったいないことです。
複数の会社で共同で研修を行う異業種研修に挑戦する
そこで提案したいのが、他社との共同研修です。マナーや啓発、健康管理など、機密性がそれほど高くない内容の研修を、オンラインを通じて共同で行うのです。
リモート研修なら会場の問題もありません。普段は交流できないような遠方の企業とも、交流できる貴重なきっかけを得られます。
なぜ異業種交流が重要なのか? そこには今、ビジネスの世界で注目されている「集合知」、「集合天才」に関係があります。
これまで、イノベーションの多くが、エジソンや豊田喜一郎、スティーブ・ジョブスのような一人の天才によって生み出されてきました。しかし、それでは天才に巡り会えなかった企業は衰退する一方です。そこで、一人の天才に頼るのではなく、さまざまな分野のエキスパートが集まり、大きなイノベーションを起こそうという動きが始まりました。
大企業が中心になってきた日本のビジネスも、今後は異なる得意分野を持った中小企業の集団が先導していくようになるでしょう。中小企業にとって異業種交流が重要である理由も、ここにあります。
2 研修データを社員の成長に活用する
蓄積した研修データを社員教育に使用する
リモート研修の特長のひとつが、データの蓄積です。リアル型研修ではアンケート用紙によるデータ収集が中心だったのに対し、リモート研修なら受講者のチャットによる発言や操作、提出した課題やテストの結果など、さまざまなデータがデジタルで取得できます。
取得したデータの用途は、主に実施した研修の成果測定だと思います。しかし、顧客データをアップセルやクロスセルに用いるのと同様に、研修で得たデータを「社員の成長」に使用するべきではないでしょうか。
研修のデータを経年的に活用する
研修によるデータを蓄積していけば、その社員が目指しているキャリアや潜在的な能力、不足しているスキルなどを分析できます(この分析工程にAIを活用してもよいですね)。
その分析結果から、
・理想に近いキャリアを歩んでいる上司との面談機会を設ける
・得意分野が似ている上司とのコネクションを行う
・潜在能力を引き出す(弱点を補う)内容の研修を行う
など、社員の成長につながる施策を考案できます。
特に、上司とのコネクションは部署やチームの垣根を越えた交流を生み出し、社内の活性化にもつながるでしょう。
「カスタマーサクセス」というビジネスの考え方があります。「企業のあらゆる活動は『顧客の成功』を促すものでなければならない」という理念です。詳しい説明は割愛しますが、顧客がサービスを簡単に切り替えられるようになった(顧客の力が大きくなった)今、一度契約した顧客を逃さない目的で考え出されました。生涯雇用という概念が薄れ、社員の自由度が高まった現在は、社員の力が大きくなったともいえます。そのため企業にも、社員の成功(成長)という目線での人材管理が求められます。
3 社員コミュニティをオンラインで立ち上げる
オンライン上のコミュニケーションを発展させる
リモート研修やリモート会議、さらにはリモートワークなど、リモートを導入した企業では、オンラインでのやりとりが習慣化すると思います。
せっかくなら、そのコミュニケーション文化を最大限に活用しましょう。たとえば、社員コミュニティの立ち上げが考えられます。
業務上(私生活上でも構いません)の疑問や課題を感じた社員が、そのコミュニティに質問を投稿。それに対して社内の誰かが自由に回答するのです。
社員が自主的に教え合う環境をつくる
ヤフー知恵袋のようなものといえばイメージしやすいかもしれません。自分が抱える課題に対して思いもよらない解決策が見つかったり、過去の質問と回答を遡って課題の自己解決が行えたりと、さまざまなメリットを得られます。
若手にとっては社員教育になりますし、投稿するベテランにとってはモチベーションアップや自信にもなります。
コミュニティ運営では、誤った情報の流布に気をつけましょう。対応策としては、ヤフー知恵袋のカテゴリマスターのように、各分野の専門家を任命することが考えられます。人事や労務、営業、顧客管理、品質管理など、各分野の担当者が定期的に巡回し、適宜回答や誤った認識の是正を行います。
4 ちょっとした動画を定期的に配信する
PCやタブレットなどのデバイスを啓蒙・啓発に使う
資料作成や情報共有のツールに過ぎなかったPCやタブレットのデバイスは、リモートの導入により(社内の)コミュニケーションツールとしての役割を持ちました。社員はディスプレイを介して、自分の仕事と向き合うだけでなく、人と向き合うようになったのです。
この変化を逃さない手はありません。もしも現在「社内報を出しても読んでもらえない」「ポスターを貼っても見てもらえない」などの課題を感じているなら、動画で配信してみてはいかがでしょう。
気になるコンテンツを配信して注目を集める
ちょっとした研修動画でもいいですし、風邪を予防しましょうなどというささやかな啓発動画でもかまいません。
魅力的なコンテンツにしたいなら、社内で働く人を紹介したり(amazonがテレビコマーシャルで行う手法ですね)、思い切って取締役クラスに登場してもらうのもいいでしょう。
普段は接触しない人とも「会える」のがオンラインの強みでもあります。
なぜamazonは、テレビコマーシャルに社員を登場させるのか? 狙いのひとつが、「ストーリー」を感じてもらうためです。働いている人がどんな人物で、何を思いながら働いているのか。それを知ることで、消費者はamazonという企業を理解した気持ちになれるのです。社内動画で社員を紹介したり、取締役にメッセージを発してもらうのも、同じ狙いです。自分が働いている企業にはどんな仲間がいて、経営層は何を考えているのか。それらを知ることは自社の理解をうながし、ひいては愛社精神の醸成にもつながるでしょう。
5 ワーケーション型の研修を行う
会社という場所から解放されたのに、PC前に縛られたままではもったいない!
リモート研修が私たちにもたらしたのは、「会社やホテルの会議室じゃなくても研修できるんだ」という新たな価値観です。だったら、PCの前にいなければならないという考えに疑問符がつくのも時間の問題でしょう。
コロナが落ち着いてからは、場所に縛られない働き方、研修がより進んだ形で行われるかもしれません。実際、現在もワーケーション型の働き方、研修に取り組んでいる企業が登場しています。
ワーケションとは休暇と仕事の融合させること
ワーケーションとはバケーションとワークからなる造語で、休暇と仕事を混合させた働き方です。授業なのか遊びなのか、なんとも言えない校外学習をイメージすればわかりやすいでしょう。
たとえば大手電機メーカーのNECは若手社員を対象に、秋田県の温泉地で演劇によるワークショップを実施しましたが、これもバケーション型の研修といえます。
温泉地やリゾート地に赴かなくても、近所の公園で研修を行うのもよいでしょう。海外の大学では、芝生の上にみんなで車座になり授業をしたり議論を交わす光景をよく見かけます。そのような習慣が、今後は日本でも見られるかもしれません。春の新人研修を公園で行い、終了後はそのままお花見に突入。なんていうのも楽しそうじゃないですか?
おわりに
リモート会議の事例調査中に感じたのは、多くの企業がやむを得ずリモートを導入しているということ。仕方なく取り入れたという姿勢が、「リアル型研修と同等の成果を出せた」ことで満足しきってしまう結果につながっているのでしょう。
これまで、私たちの多くは、書籍やセミナー、講演会を学びの手段にしてきました。しかし、「オンラインで学ぶことを学んだ」ことで、学ぶ手段の選択肢が増えました。今後、JMOOK(大学教授の講義を無料で視聴できる素晴らしいサービス!)のような学習機会に参加する社員が出てくるかもしれません。
リモート研修によって生まれた可能性や選択肢を活かして、どんなことができるのか。
はたまた、どんなことをするのか。
そのアイデアと挑戦が、今後のニューノーマルをつくっていくのだと思います。